チャリンコのお悩み、解決します｜リアクション

チャリンコのお悩み、解決します

サイクルショップ『CatBiCycle』

　宮祀智瑜は、自転車をこいで八百屋『宮祀青果店』に戻るところだった。学校がないときや放課後に手伝いをしているのだ。今は配達がえりである。
　前に籠、後ろに荷台というごく普通の見た目をしている智瑜の自転車だったが、旧市街で突然止まってしまった。
「パンクしちゃったみたいですね……ん？まきびし？」
　まさかこの辺で忍者が修行している？智瑜はきょろきょろを辺りをうかがってみるが、怪しい者の気配はない。
「困りましたね……自転車屋で修理しないと」
　周囲を見渡して自転車屋を探す智瑜。そのとき、間が良いのか悪いのか、すぐ近くから悲壮な声が聞こえてきた。
「ひっでぇパンクだなこりゃ。くぅっ、ついてねぇな……。なんだよこれ、まきびしか？」
　ぼやきながら自転車を押し始めたのは、山田勘三郎だ。
「ちょっとしたパンクくらいだったら自分で直せるけど、こりゃ無理だ」
「あの……このあたりの自転車屋さん、ご存知ですか？」
　智瑜は、同じように自転車屋に用ができたらしい勘三郎に聞いてみることにする。
「おう、普段から世話になってる店、知ってるから案内するよ。『かっとびさいくる』っていうんだけどな。もっとも、自転車屋に行くこと自体が年に一回くらいだから、馴染み客ってほどでもないけどな」
　勘三郎の言葉を聞きつつ、智瑜は彼について行った。

　サイクルショップ『CutBiCycle』は、いつになく大盛況だった。
「いえーい！みなさん、いらっしゃいませー！」
　今日は、店主夫妻は都合で不在。娘の柚瀬玲音が留守番と称して店を手伝っている。力仕事やお金関係はアルバイトの青年がいるから安心だ。
「れーねちゃん、オイルとってくれるかな」
「はーい！」
　バイトさんの声に、元気よく答えてちょこまかと店内を動き回る。
　バイトさん・二輪悟（にわ・さとる）は大学生で、長身とソフトモヒカンの髪型、そして眼鏡がトレードマークの好青年だ。
「お父さんとお母さんは用事なの？」
　クロスバイクのメンテナンスを順番待ちしている青木慎之介が聞く。
「うん！今日はおとーさんとおかーさんの分までがんばるよー！さとるおにーちゃんもいるから大丈夫！」
　玲音は元気よく答えた。自転車屋というのは一度にたくさんの客が来るタイプの店ではない。玲音もさほど店番に出るわけではないので、今日の人出に玲音は興奮気味だ。
「自転車がパンクしてもうた……。ま、近くに自転車があってよかったわ」
　また一人、自転車を引いてお客さんが現れた。
「いらっしゃいませー！」
「あれ、あんたが店番しとるんか？小さいのによう働くなあ。……うわ、なんかえらい人多いなあ」
　関西弁を操りながら店内を見渡すのは、須藤清一郎だ。思ったより待ち時間がありそうで驚いた様子だ。
「ま、ここで会うのもなんかの縁やろうし、挨拶くらいしとこか」
　手持ち無沙汰の清一郎は、そばにいた青年に話しかけてみる。
「お兄さん、かっこええロードバイクですなあ」
「これかい？ありがとう。家から大学まで通うための足だから、ちゃんとメンテナンスしないとね」
　青年、市橋奏楽は微笑んで答え、誕生日に養父に買ってもらった愛用のロードバイクをなでた。
「きれいにメンテしてあるように見えるけどねぇ」
「セルフメンテもしてるけどね。ロードバイクはきちんとメンテしないと本来の性能は出ないから、こうしてお店に持ち込んで手入れしてもらうのも大切なのさ。君、高校生？」
「ええ、寝子高の1年ですわ」
「なら、うちの弟と同じだね。知ってるかな、芸術科の1年で……ん？」
　奏楽はふと言葉を止めた。店内に、思わぬ人の姿を発見したのだ。
「誉じゃないか！」
「奏楽！どうしてここに？」
　奏楽の弟、市橋誉も、自転車のメンテナンスのために来ていたのだった。
「そうだった、誉も自転車通学だったな。今日はメンテに来たんだよ。ついでに君の噂をしていた。誉は？」
　誉は、自分の持ちこんだシティバイクを指さした。
「チェーンの交換をしてもらいに来たんだ。自転車のチェーンは走るほど摩耗するらしいし、一度外れたこともあるからな。ついでに自分でメンテできるよう、交換の仕方も教えてもらおうと思って」
「兄弟やったんか……奇遇なこともあるねんなぁ」
　清一郎のほうは、妙に感心しながら兄弟の偶然の出会いを見守っていた。

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