チャリンコのお悩み、解決します｜リアクション

チャリンコのお悩み、解決します

「タイヤ交換の値段とママチャリの値段、そう変わらないのね……新しいのを買ったほうが良かったかなあ」
　篠原翠響は、陳列されている自転車の値札を見て思う。
「でも、今の自転車も夏休み前に買ったばっかりだしもったいないかな……」
　考えながら、翠響の興味は飾られているほかの自転車に行く。
「あ、これかっこいいなあ……」
　彼女が気を惹かれたのは、赤い塗装がされた小ぶりの電動自転車だったが……。
「……はぁ」
　値段をみて、思わずため息をつく。お小遣いを何年貯めればいいのだろう。
　そんな翠響を見て、小さく笑った人がいた。
「電動自転車ですか？　楽そうですが、私たちの年では手が出ませんよね」
パンク修理の順番待ちをしていた宮祀智瑜が、微笑みながら立っていた。
「もっとも、私は運動をしていないので、自転車で楽しちゃったら体重が増える気しかしませんが。あなたは、スリムなので平気そうですね」
「あたし？う～ん、そうかな……」
「見たところ、スポーツは得意なんじゃないですか？」
「うん、スポーツクラブで新体操やってる！」
「そうなんですか！かっこいいですね……私も、ときにはちょっと運動してみたくて。これなんてかっこいいですよね」
　智瑜が指さした先には、「売れ筋！」のポップのついたMTBがある。
「マウンテンバイクかぁ……。どんな感じなんだろう」
「私も乗ったことがないので、乗り心地とか気になります。でこぼこの道もすいすい走れたりするんでしょうか？」
「きっとそうだね！『山道も安心』って書いてあるもの。あ、これもかっこいい！」
「折りたたみ自転車ですね。いつか車に乗れるようになったら、車に積んでどこかにいきたいなって思ってるんです」
「車だったら、普通の自転車でも積めないかなあ？」
「でも、助手席を倒さないといけなかったり大変そうですよね」
　翠響と話しながら、智瑜はふと済ませたい用事を思い出した。智瑜は振り返ると、作業中の二輪悟に声をかけた。
「すみません、パンクしてない方のタイヤにも、空気を入れてもらえますか？ちょうど空気が減ってるなって思ってたところなんです」

　日が傾く頃になると、店の混雑も収まり、徐々に客も引けていった。
「ありゃ、もうこんな時間か。悪いな、長居しちまって。でも、楽しかったぜ」
「いえいえ、ありがとうございました」
　山田勘三郎も、悟の声を背に、パンクの直った自転車を漕いで帰っていく。
「自転車屋に来て絵を書いただけ、というのも悪いから消耗品を買っていこう。グリスと虫ゴムが欲しい」
「あまり自転車を使われないなら、無理なさらなくても結構ですよ」
　悟の言葉に、旅鴉月詠は静かに答える。
「普段は徒歩主体だけれど、少し遠くに出かけたり、急いだりするとき用に自転車は持ってる。電動アシスト付きのママチャリだけどね。だから心配しなくても必要になるのさ」
　月詠は、言いながらすでに財布を取り出して待っていた。

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