半分コドモ、半分オトナ｜リアクション

半分コドモ、半分オトナ

◆
音楽会館の練習室に、ヴァイオリンの音色が響く。
呉井弦月がふと時計を見ると、もう帰るにはいい時間だった。
「……そろそろ帰ろうかな」
演奏する手を止め、ヴァイオリンを片付ける。
そうして会館を出ようとした、ちょうどその時だった。
「……あ」
ぽつり、と。
空から一雫、こぼれ落ちた。
それはあっという間に連なって、雨になった。
天気予報には雨なんて、なかったはずだけど。
「ついてないな……」
思わずこぼす。
さて、どうしたものか。
一応折りたたみ傘は持ってきているけど、通り雨のような気もする。予報には、なかったわけだし。
雨の中を歩き出て、すぐやんでしまったら濡れ損だ。
もう少しだけ、様子をみてみようか。
「それにしても、雨か……」
降り注ぐ雨を窓越しに眺めているうちに、ふつふつと嫌な気持ちが奥の方から沸き上がってくるのを感じた。
……雨はあまり、好きになれない。
見ていると、思い出したくないことを思い出してしまうから。
――今、あのバカ兄はどうしているんだろうか。
雨が降ると、古傷が痛むのを隠して無理をしたり。
すぐに一人になろうとしたりする。
また無理をしていないといいけれど、と。
そう思う一方で、腹が立つ自分も居る。
どうせこっちがいくら心配したところで、あいつは笑って誤魔化すから。
本当に。そういう所に腹が立って、仕方ない。
ほらね、っと自嘲するような笑みが弦月の口元に浮かんだ。
だから雨は嫌なんだ。
あんなバカ兄の事なんて、忘れていたいのに。
雨が降るたびに、すぐ思い出してしまうから。
ああ、早く止んでくれないだろうか。
「……」
何だか無性にイライラしてきたし、止むのを待ってる間に母親にメールでもしよう。
内容は、件のバカ兄のことだ。
多分連絡を取っているはずだから、何か分かるだろう。
本文を手早く打ち込んで、送信。
それからメールが返ってくるまでは、あっという間だった。
「――は？」
確認するなり、弦月の眉間にしわが寄る。
『おみやげ買って来たら教えるぅ♪』――返信が、そんな内容だったから。
おみやげと言われても、何を買ったらいいのかさっぱりだ。
少し苛立たしげに返信すると、今度は『甘い物がいいなぁ』なんて返ってきた。
母親のそういう所は、ありがたくないことに本当にそっくりだ。
「腹が立つよ……」
思わず、ため息と共にそんな言葉がこぼれ出た。

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