コズミック焼きそばパンをこの手に！｜リアクション

コズミック焼きそばパンをこの手に！

「お昼休みなのだー！」すっかりできあがった真央が叫ぶ。
「いえーい！！」朱蘭がカップを上げる。

　昼休みの中庭。
　先ほどの嵐は消え、青空が広がる。

「お疲れ様―！」朱蘭が笑いかける。「どうよ、いろいろあったけど、疲れただろ？」
　お昼ごはんのついでに、宴会しようぜ！
　彼女の提案を、断る者はいなかった。

　疲れ切った修に、朱蘭はろっこん水を薦める。
　酔っ払いハリケーンを巻き起こした彼女。
「まさか、あんなことになるなんてな……」
　自分が渦中にいながら、人ごとのように言う。

「ま、なんとかなったからいいか！」
　真央も拳を突き上げる。争奪戦が終わっても、宴会は終局が見えなかった。

「っていうかさ、その情熱を他のことに生かせないかな？」玉ねぎサラダを量産しつつ、十一が言う。「たとえばほら、納農園の手伝いとかさ。時給は出ないけど、キャベツなら山盛り食べさせてあげるよ？」
　十一の提案に、貧乏猫鳴館の生徒たちがグビリと喉を鳴らした。

　低気圧は追い払われ、寝子島は爽やかな秋晴れで包まれた。
　鮮やかな草花に囲まれ、宴会は続く。

　璃亜は、呆然としていた。
　あの女の子……朱蘭さんに水を薦められて以来、あまり記憶がない。
　だが、なぜだろう。妙に周りの人が気を使ってくれる。
「あんなに飲んで、大丈夫？」とか、
「何か嫌なことがあったの？」とか、
「酒に逃げちゃだめだよ」とか。

　彼女が我に返ると、購買は人でごったがえしていた。
　蜂蜜パンを手に、何とかレジにつく。
　そこで気づいた。
　ポケットに穴が開いている。
　財布がない。

「……また、お昼抜きですね」

　ため息を漏らす璃亜に、財布が渡される。
　落としてたよ？　博美が笑いかける。
　感謝を言って受け取る璃亜。
「それからこれ」博美が蜂蜜パンを取り出す。「なんか、欲しがってたみたいだったからさ」

　うまく二番手につき、手堅い活躍が出来た。
　生徒会としても、生徒としてもメリハリをもって立ち回れた。
　テストもやらずにすんだ。博美は満足である。

　利平と焼きそばパンを分け合う信彦。
　事態は予想もしない方向に進んだが、着実に焼きそばパンファイナリストに名を連ねる彼は、評判を高めていた。
　利平は上機嫌でパンをほおばる。彼なりに手ごたえがあったようだ。

　修は疲れ切っていた。
　こんなに必死で焼きそばパンを作るとは、思っても見なかった。
　どうも最近、焼きそばパンと妙な縁があるような気がする。
　今回はサンドイッチを買いに来たのだが……。

「ところで、どのへんがコズミックなんだ……？」
　ひと口、口に含んでみる。

（普通の焼きそばパンと、変わらないな……）

　修は首をひねる。
　コズミックとは、単に食材が豪華、という程度の意味なのか……。
　結論がどうであれ、修の興味を引く対象ではない。
　とにかく焼きそばパンは美味しかった。

　刀は考える。
　焼きそばパンが、焼きそばとパンを挟んだもの。
　だったらコズミック焼きそばパンは、コズミックと焼きそばとパンを挟んだものだ。
　コズミックに意味なんてなければ、それは只の焼きそばパンだ。
　簡単な加法。あらたなものが析出される余地なんてない。

　つまりコズミック焼きそばパンとは、材料が豪華なだけの、ただの焼きそばパンだったのだ。
（まあ、うまいからいいか）
　呟いて刀は、空を見上げた。

　恐縮する沼田さんに頭を下げて、執は焼きそばパンを受け取った。
　結局焼きそばパンは二つ買ったらしい。
　どちらでも同じ。適当に選んだ焼きそばパンを、執は齧る。
「この次は……」ひそかに誓う復讐。「同じ悲劇を、繰り返しはしない……」

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