コズミック焼きそばパンをこの手に！｜リアクション

コズミック焼きそばパンをこの手に！

　蛇那伊は感じる。視線を向けるのは、まぎれもなく月乃。

「できたら穏便に済ませて、焼きそばパンを買いに突っ走りたい」
　彼女は口腔に飴を含み、ギリリと拳を握る。
「だが、現実はそんなに甘くない」

　蛇那伊は、ぬかせないだろう。
　降りかかる火の粉は、払いのける。
　修羅となった彼は、危険すぎる。

「ならば、肉体言語で語るまでだね！」

　蛇那伊は階段を駆け上がりながら、月乃との適切な間合いを測る。
　だが、小さいころから武芸百般に秀で、今は弓道部に所属する月乃。
　射程圏内は無限大だ。
　下手に、適正な間合いに入れば、あっという間に踏み台にされる。

　階段を上りつつ、牽制を放つ。
　月乃はそれを躱し、フェイントを打ち込む。
　それを回避し、さらに階段をのぼりながらの一撃……。

　互いに互いの技を打ち消し合う、恐ろしい戦闘空間が繰り広げられていた。
　超光速でじゃんけんのあいこを出しあっているような状態だ。
　それぞれの躰には触れることなく、あらゆる技が出され、あらゆる技が打ち消される。

　誰も、割って入ることはできない。

　ここだ！　刀は大きく踏み出す。
　誰も割って入ることの出来ぬ戦闘空間。
　その間隙を狙った。

　――速さで俺に勝てると思うな！

　走りながら脳裏に描き出される銃口。冷たく硬いその手触り。ためらわず刀は、想像のトリガーを引き絞る。

　ガキン！

　刀のろっこん『加速』！
　世界の色彩と音響が遠ざかり、境界線が彼方からくずれ、無音の雪崩となって押し寄せてくる。
　自分の身体能力が極限まで高まるのを感じる。
　冷たい光の様に、刀は駆ける。

　おおっ……！
　どよめきが沸き起こった。

　一万分の一秒、それをさらに微分しつくした、物理法則すら死に絶える超音速の世界。
　二つの風車の間をすり抜けるように、刀は月乃と蛇那伊を越えた！
　風圧が鎌鼬となり、二人に襲い掛かる！
　ネタＴシャツを庇おうとする月乃。それを全身で壁にするのは蛇那伊。
　風圧で服が破れ、肉体があらわになる。

　無限と思える一瞬ののち、再び駆け出す一同。
　いよいよ、二階である。