コズミック焼きそばパンをこの手に！｜リアクション

コズミック焼きそばパンをこの手に！

　また、購買に辿り着けなかった。

「今日のお昼は、蜂蜜パンにしましょう」
　朝寝坊をし、お弁当を作れなかった璃亜は、購買でパンを買うことに決めた。
　前回購買部に行ったときは、あちこちぶつかったり、滑って転んだ。
　購買についたとき財布を忘れたのに気づいて、戻ってきたら全部売り切れていた。
　受け取った蜂蜜パンが、わりと気に入った。

　今回は同じミスはしない。
　念には念を入れる。小銭入れをスカートのポケットに。
　購買に近づくほど、周りの人間が増えていく。前回の嫌な記憶がよみがえる。
（なんとか……前へ……）
　押し合いながら顔を出した璃亜。
　そこに飛んでくる玉ねぎ。
　まともに顔面に命中した。

「こ、これくらいであきらめるわけには……」

　吹き飛ばされたその先には、がおーの撒いたトラップの山。
　雑巾とモップ、１ダースくらい踏みつけ、璃亜はひっくり返った。

　気が付くと、辺りに人は消え、玉ねぎと花々が荒涼と散乱するだけ。

　また、購買に辿り着けなかった。それは分かった。

「大丈夫か？」朱蘭の声にもうつろだ。
　顔色の悪そうな璃亜。

　朱蘭は気遣いながら、水を一杯与える。
　璃亜はそれを見詰めて、一息に飲み干した。

　朱蘭の息が詰まる。

　朱蘭のろっこん『似非バッカスの施し』
　彼女が印を結んだ水を、酩酊状態を引き起こす液体に変える！

　単なるろっこんと侮るなかれ。
　ひと口飲めば、天地がひっくり返り、三半規管がジルバを踊る。

「おお……姉さん、いい飲みっぷり」
　唖然とする朱蘭を見据え、璃亜はしゃっくりを一つ漏らす。

　くらり。
　璃亜の頭が揺れた。
　あわてて抱きかかえる。殴られたくらいの衝撃はあるだろう。

「……」
　璃亜は朱蘭を見据え、黙ってコップを差し出す。

　朱蘭は、ろっこん水を継ぎ足した。

　つぎつぎ干されるろっこん水。
　朱蘭も仕方なく、それを口にする。

　女の子二人の、奇妙な酒宴が始まる。
　雨を孕んだ風が、彼女たちの周囲の花弁を散らした。

　撫子の花言葉は「女性の美」。
　それに「快活」。
　さらに「私を愛して」。
　人を引き付ける大胆さ、それとうらはらの繊細なかわいらしさ。
　愛する者が、どこかに消えてしまうのではないかと、不安に揺れる心。
　可憐な花は、朱蘭にふさわしかった。

　璃亜の口にするろっこん水。
　その上に、薔薇の花弁が散る。

　薔薇の花言葉は「不幸な恋」。
　
　その傍らで、ずたぼろの鴉の変身が解けた。
　ゆっくり勘三郎が輪郭を取る。