コズミック焼きそばパンをこの手に！｜リアクション

コズミック焼きそばパンをこの手に！

　天を覆う雨雲は、ついに沛然たる風雨をもたらした。
　遠雷が轟き、涙滴がアルミの屋根を激しく叩く。

　信彦と利平は、声を失って立ち尽くす。
　目の前には、神々しい一匹のシカの姿。
　滝のような雨に打たれ、閃光に姿を浮かび上がらせる。

　それは本邦でまず見ることのない、『サオラ』の姿だった。

　シダのろっこん『ベトナムユニコーン』！
　ベトナム産の希少種アンテロープ『サオラ』へと変身する！

　チャイムとともにシダは窓から跳躍。それとともにろっこんを使用。
「チアントイ！」光芒とともに自らの姿をサオラに変じる。優美に着地。

「１０．０、金メダルだ、シダ！」あわてて走り出す。「言ってる場合ちがう！　パン！　パン！　パンパカパン！」

　植え込み沿いを疾走し、渡り廊下前に辿り着く。
　そこから人の姿に戻り、校内に侵入する予定だった。

　だが、渡り廊下に辿り着くと、様子がおかしい。
　中途で人がもみ合い、風紀委員たちが目を光らせている。
　強行突破も良いが、あまり乱暴なのはシダの望むところではない。
　しばらく様子をうかがっていると、サオラの鋭敏になった感覚に、耳慣れぬ物音が届いた。
（……？）

　そして、博美のチクリがトリガーとなった。

　全ての像が脳内で結ばれるより早く、シダは渡り廊下の天井へ跳躍する。

（やきそば！　やきそば！　まってろ！　まってろ！）

　利平と信彦、サオラと無言で対峙する。
　白熱の一瞬。
　閃光が瞬き、サオラの姿は消え、少女が現れた。

（はやいやつ、いるか）シダの視線がとらえるのは、利平。（いた、いた。競争、競争！）

「いくぞ、いくぞ！」シダは疾走を開始する。
「バラの人！」突然シダに名指しされる信彦。「いそげ！　いそげ！」

　ズルする奴は蹴るつもりでいたシダ。彼らの作戦は、正々堂々だ。
　何より、だれも傷つけていないのが、いい。

　利平は走り出す。「今回は加減しねぇ！」
　
　
　名指しされた信彦は笑う。すべて予想通り！

　ただ一つ開けられた窓。
　二階、職員室。あそこは開いている。信彦はそれを確認していた。
　たどり着けばよい。
　なに、ちょっとしたクリフハンガーを愉しむだけさ。