フリマっ！｜リアクション

フリマっ！

　よく売れました。
　霧生渚砂はぼちぼち、店じまいをはじめています。
　なかなか儲かったのでこのお金で、家族に新しい冬服を作るとしましょう。
　途中、立ち寄った八神修に「なんでこんな服を持ってるんだ？」とコスプレ服のことを驚かれたりもしましたが、それも今となってはいい思い出です。……ま、そういうことにしておきます。
　さて帰ったらまず収支を計算して、と渚砂が考えていたそのときです。
「うわあー！　なんでーすかこれー、とってーもカーわいーデース！」
　と叫んで彼の前に、土埃立てて滑り込んできたアメリカ娘がおります。
　メル･ミラーでした。
　しっかりと彼女は、モグラのぬいぐるみに抱きついております。目がハートになっているのだから相当なものです。
「ああそれ？　モグラ。俺の手作りなんだ。実はそこにあるぬいぐるみは全部そうさ」
「全ー部手作ーりなんデスカ？　職人サーンデスネ！」
　と言ってメルの視線が次に止まったのは鎧に魔術師のローブ、そして神官の法衣です。
　……といってもすべて、コスプレ衣装なのですけれど。
「ホワ！？　こ、これはマサカ！」
「え、えーとそれは……」
「伝説のコスプレ服！」
　伝説の、といっても、メルが心酔している作品の、というだけのことなのですが。
　魂が揺さぶられたのか、目をウルウルさせて彼女は声を絞り出したのです。
「メ……」
「め？」
「メアド交換してくださいっ！」
「メアド！　ま、まあいいけど……」
　これが渚砂とメルの奇妙にして長い付き合いの発端となった……のかどうかは、これからの物語で明らかになっていくことでしょう。

　さて、と。
　八神修はタイガを抱いて、フリマ会場を離れるのでした。
　色々買いましたね。
　本に服にアクセサリー。
　ここに七夜あおいがいないのが残念ですけれども、彼女のことをずっと考えていた一日でもありました。
　最後は屋台で軽く食事など、とって帰るとしましょうか。そろそろ温かいものがうれしい季節、ラーメンなんていいですね。
「あれ？　市橋……」
　ちょうどそのラーメンの屋台から、友人の市橋誉が出てくるのを修は見ました。声をかけようとして、ぴたりと手を止めます。
　誉は、見知らぬ女の子と連れだって出てきたのです。
　褐色の肌が健康的、真っ黒な髪の少女です。ジャンパーにジーンズというラフな格好、けれども、はっとするほどの美少女でした。中性的な顔立ちですが、それがまた魅力的です。
　誰でしょう？　（皆さんはもうご存じですね、詠寛美です）
　友達？　それともまさか、彼女とか？
　誉たちは会場に戻っていきました。誉は「知り合いがやっている店があって」と、弥島純子と喜多川怜子のブースへ寛美を案内しているのですが、もちろん今の修にそのことを知るすべはありません。
　声をかけそびれてしまって、そのまま誉たちは姿を消してしまいました。
「今度……訊いてみるか」
　いいんです。修だってひとりじゃないから。タイガがいるから。
「猫が食べてもいいものとか、ラーメン屋にあるかな……」
　独言しつつ修は、『猫島軒』に入っていきました。

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