焼きそばパンＤＸをこの手に！｜リアクション

焼きそばパンＤＸをこの手に！

「無差別ろっこんしちゃってごめんなさい！」
　ぺこりと頭を下げるもなかを、皆は苦笑して見つめた。
　悪気があったわけではない。自分の力を試したかっただけ。
　それに皆、彼女の機智に感嘆してもいた。
　ともあれ、戦いは終わったのだ。皆で食事しながら、反省会というのも悪くない。

　だが、その前に掃除だ。

　黄と黒の『ＫＥＥＰ　ＯＵＴ！！』のテープが張られた渡り廊下で、焼きそばパン争奪の主犯、それから有志たちが、洗剤と葛湯まみれの廊下を必死でぬぐっていた。
　本来なら生活指導の熊先生の雷がおちるところだが、そのあたりは博美がなんとかしてくれる。
「しかられたらしおらしくふるまうこと。フツウの学校生活を満喫するための知恵だな」
　博美の言葉に一同が頷く。さすが生徒会。

　戦いの推移から博美は「二番手、三番手で漁夫の利を得る作戦」から「厄介なことに巻き込まれそうになったら、なるべく平穏にすます作戦」に出るとこにした。
　幸い、あれほどの大騒ぎにもかかわらず怪我人は少ない。多少騒いでしまったものの、寝子島高校では日常茶飯事だ。

　うまくまるめこんだらしく、博美の反省文提出でおとがめなしということになった。
　此処にもひとり、戦士がいたのだ。

「わたしは悪くないのですが……気が付いたら廊下が散乱していました……誰に責任があるというよりも、これは普段から整理整頓をしていない、生徒全体の問題であると思います……」
　責任の所在をうやむやにして拡散させる反省文。その文面を考えつつ、博美は割れた窓ガラスを刷いていた。

「うう……すまない」掌の踏まれた植物を見ながら、十一は首をかくんと下げた。「ちゃんと、埋めてあげるからな……」ごしごしと床をぬぐう。

「そこ、何を回転しとるかーっ！！」熊先生の怒声が響き渡った。

　意気投合した環とシダが、回る動きを掃除に取り入れられないか工夫している。
　たまに回転するほうが主になる。ご愛嬌というものだ。

　月乃と蛇那伊は、先ほど力比べしていたとは思えないほど、和気藹々と話している。
　蛇那伊の女子力の高さに、ひそかに「負けられない……」と闘志を燃やす月乃。

　朝陽と刀は、完全に座り込んで戦術談義に入っている。
　サッカーの体術は、刀にも学ぶことが多い。
　刀の瞬発力は、小柄な朝陽にとって魅力的だ。

　誰かが言った。「焼きそばパンが目的ではない。誇りを得ることが大事なのだ」。
　同じように力を尽くした敵なら、仲間となれる。争奪戦は、思わぬつながりを生み出した。

　掃除はなかなか進まなかったが。

「もう、どうしようもないな、と思いました……」ぶつぶつ反省文の文案を練る博美。
　じっと見つめる視線を感じ、照れ隠しにこう叫ぶ。
「これが、学園生活だ！」

　昼休みを半分も割り込んだのち、掃除は終了した。
　洗剤と、ワックス替わりの葛湯をふんだんに駆使し、大人数で拭き清められた渡り廊下は、必要以上にビカビカで、そのあと訪れた来賓客をたじろがせるほどであったという。