焼きそばパンＤＸをこの手に！｜リアクション

焼きそばパンＤＸをこの手に！

　もなかは呆然としていた。
　不思議な気分だった。
　すごくいろいろな経験をしたような気がする。
　いろんな人に会えたような気がする。
　ふと見ると、圭花が樹に凭れていた。

（何か、見つかった？）
（はい！）
（そう……）

　微笑んで、圭花は空を見上げる。最後までミステリアスで、思わせぶりな彼女。
　ちゃっかりパンをかじりながら、彼女が見上げるのは真昼の月。
　フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン……どこまでも謎めいた彼女。

　さんざんな目に遭いつつ、修は自前の焼きそばパンと、購買のものを手にしていた。
　仮説と実証。そこにはこだわっていきたい。
（あおい……）
　鰯雲の浮かぶ秋空に、不意に彼女の顔が浮かんだ。

　そんな修の姿を、もなかは目にした。
（焼きそばパン大好きな人だ……）
　どのような苦境でも、けして焼きそばパンを手放さなかった人。
　さらには、もう一つ焼きそばパンを持っている。
　どれだけ焼きそばパンが好きなんだろう。

（話をしたい）
　もなかは、修に走り寄った。

「好きなんですか？」もなかが聞く。
「ああ……そうだな」修が答える。色に出にけりわが心、ともいう。やはりあおいへの想いは、隠し通せないのだろう。「好きだ。ありふれているのかもしれないが、俺にとってはかけがえのない存在だ」
「そ、そんなにっ……！」
「さっき倒れた時も、夢の中に現れた。俺を応援してくれた……」
「すごい……」
「けど、うまくいかないんだ」さびしそうに修は笑う。「俺には生涯、縁がないのかもしれないな」
「そんなことないです！」もなかは叫んで立ち上がる。「待っててください！」

　もなかは買い物袋をわさわさと漁る。半ば潰れた焼きそばパンを取り出す。
　傍らにいた璃亜に「おいしいよ」と、自分のパンを押し付ける。

「はいっ！！」瞳を輝かせるもなか。
「……」修は反射的に、パンを受け取ってしまう。
「応援してます！」頭をさげて走り去るもなか。
　
　焼きそばパンを手にしたまま、修は疑問符で頭をいっぱいにしていた。
　なぜ彼女は、焼きそばパンを自分に手渡したのだ？
　しかもわざわざ「賞味期限間近」の、潰れかけのパンを渡してきたような気がするが。
　だが、彼女に悪意は感じられなかった。
　すごく、いい人っぽかった。
「応援してます！」みたいなオーラを出していたような気もした。
　
　なぜだろう。ものすごい勘違いをされているような気がする。
　あとでちゃんと、話をしないと。

　釈然としない顔をしつつ、修はきっちり、潰れかけ焼きそばパンを三つ平らげ、倒れた。

　空が高い。
　なぜか血の涙を流しながら焼きそばパンを貪り食っている執。
　璃亜は、しばし呆然とする。

　璃亜は、手元のパンをじっと見つめた。
　すっかりお昼ごはん抜きモードだったので、今さら何か食べるのは正直億劫だ。
　かといって、クラスメイトの渡してくれたパンだ。捨てるわけにもいかない。
　ため息をついて、ひと口かじる。
　とろりと、蜂蜜の雫が口元を伝った。

　璃亜の頬に、ほんの少し赤みがさす。悪くない。嫌いじゃない。
　なんというか、このはちみつパンの味は、自分によくあっているような気がする。
　もなかに感謝しつつ、璃亜ははちみつの味を舌で転がした。

　彼女、クラスメイトだった。
　今度話しかけてみようかな。

　はちみつパン。確かに彼女には、似合いだったのかもしれない。
　ほら、言うではないか。
「不幸は、蜜の味」。

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