焼きそばパンＤＸをこの手に！｜リアクション

焼きそばパンＤＸをこの手に！

「でも、ああいうのって一回で飽きるよね」十一が言う。「というか、キャベツは納農園のやつの方が、新鮮でおいしいに決まってる！」
　確かに十一の植物の『元気さ』は、みんな思い知っていた。
　それに植物について語る時の、彼のイキイキした様子。
　彼の農園のキャベツが、まずいはずはない。
「購買のお姉さんに頼んで、納農園のを使ってもらおっと！」十一の宣言に、わっと拍手が沸いた。

　掃除を終えて、一同は中庭に出てきた。
　せっかくだから皆でパンをおいしく食べようという話になったのだ。

「はい！　はい！」元気よく購買のパンを一同に渡していく環。「踏み台にしちゃった、お詫びのしるし！」
　彼女はとりあえず満足していた。体を思う存分使うことができたし、ちょっとしたサーカスをすることもできた。焼きそばパンこそ手に入らなかったものの、購買のパンはいつだって美味しい。
「ウメー！」感極まって絶叫する朝陽。声を合わせるシダ、月乃。
　刀も無言でパンをほおばる。９９％まで手の内にあった勝利。ハプニングがあったものの、それは時の運だ。
　パンは、彼の望んだ勝利の味とは、少し違ったものかもしれない。
　刀自身がどう受け止めるかどうか。
　すくなくとも、みんなで食べるパンは美味しかった。

「美味しい！」月乃が笑う。
　博美もここぞとばかりパンを堪能している。ひょっとしたら大事になっていたかもしれない今回の事件、掃除くらいの罰ですませてしまった彼女の手腕は見事だった。誰もが彼女の感謝していた。
「ンゴーン、おいしい、おいしいな！」ニコニコ笑ってパンを満喫するシダ。
　環、そしてもなかに微笑みかける。
　先ほどのろっこんにはびっくりした。そして、ごめんなさいするのも立派だと思った。
　すてきなバン（ともだち）に、なれそうだ！
　

「ほい！」
　そんな彼女たちに、小口に切られた焼きそばパンが手渡される。
　怪訝そうな少女たちに、信彦は笑いかける。
「焼きそばパンだ、セニョール！」
　勝者の笑みが、彼の顔を飾っていた。

　すべてのパンを買った袋の中には、焼きそばパンが一つだけ。
　ごく簡単な除算だ。これが『焼きそばパンＤＸ』に違いない。

　女子の人数分切り分けられた焼きそばパンを、信彦は差し出す。
「焼きそばパンが欲しいわけじゃない。手にした名誉が欲しいのさ！」

　女子たちは顔を見合わせる。
　確かに、これを巡って自分たちは争っていた。
　焼きそばパンＤＸ、食べてみたい。

　欠片を放り込んで、咀嚼する。
　沈黙が流れた。高い秋空に、トビの声が響く。

（びっ、微妙……！）
（普通の焼きそばパンと、変わらないっ……！）

　釈然としない表情を覆い隠して、感謝の言葉を述べる一同。
「やったね、すごいな！」
「尊敬しちゃう！」
「ありがとう。アスタラ・ビスタ。また会おうぜ、ベイベー」
　賞賛の声を浴び、立ち去る信彦。ベンチで片っ端からパンをあさっている利平と、食事をするためだ。
　苦難をともにした仲間。信彦にも、何がしか共有したい感慨があるのだろう。
「リヘーくん、そんなあわてなくても、パンは逃げないよー」
「おお八十八旗、このアンパン、うまいぞ！　なんだか超絶うまい！」

　得意げな信彦を見て、女性陣は黙っていた。
（どう食べてみても、普通の焼きそばパンだなんて、とても言えない……）
（きっと、信彦くんは『普通の焼きそばパン』を食べてほしかったのよ……）
（そうよ、あんなに『ドヤッ』って顔をしていたのだもの……）
　焼きそばパン大好き少年。
　謎のデータが、彼自身のあずかり知らぬところで、信彦のプロフィールに記入された。

　

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