焼きそばパンＤＸをこの手に！｜リアクション

焼きそばパンＤＸをこの手に！

　誰にとっても死角であった。
　変幻自在の華麗なジャンプ。
　環は蛇那伊の肩を踏み台にし、跳ね上がる。
　その肩先に痛みはない。環は空中で靴を脱いでいた。
「ごめん！」
　言いつつ環は、逆サイドの壁を蹴りあげ、大きく弧を描きながら、二階の手すりに手を掛ける。
　その状態で静止して、一同を見渡す。
「たまちゃん、牛若丸って人をリスペクトさ！」

　そのまま体を滑り込ませると、シダと朝陽の前にひらりと降り立つ。
　ショートカット成功。環の超絶の身体能力をもって、可能な技だ。

　朝陽は、傍らのシダを見る。
　シダは歓喜に燃えていた。

「シダ、ダダダ！　ダダダ！」
　叫んで彼女は、環にとびかかる。

　背後には刀らのグループが、歓声を上げて駆けあがってくる。

　環はシダを導くように、段上へと上る。

　環、シダともに、笑っていた。
　おそらくここに至るまでの道で、お互いを意識していたのだろう。
　卓越した身体能力。直線的なものではなく、流れ、円を意識した動き。
　自分と似た存在が、いる。
　敵か、仲間か。
　だが……この争奪戦の場では、好敵手。

　シダが柔術の構えを取る。
　ベトナム空手、ボビナム。
　ベトナム独立を祈念して作られたその武道は、破壊力もさることながら、踊るような優美さも人の目を奪う。
　あくまで美しく、誇らかであることが、ボビナムには課せられているのだ。

　環も足を踏み鳴らす。
　他人を傷つけるのは本意ではない。だが、相手が望んでいる。
　自分が、身体能力のすべてを使うことを。

　相手の気持ちには、答えてあげたい。

　……一度だけ。

　流麗な動きから、シダが旋回しつつ、飛び蹴りを放つ！

　鷹の様に飛び上がり、五点着地の要領で、環がムーンサルトを撃つ！

「おおっ！」一同が声を上げた。