アンノウンな人々の日常｜リアクション

アンノウンな人々の日常

【第６話　マグロさんは、攻めですか？】

　チリン！　と入口のベルが鳴り、店に新たな客が入って来た。
　ふり返ったマグロは、その客を見るなり、音を立てて立ち上がる。
「サンマ！　この軟弱野郎と、こんな場所で出会うとは！」
　怒鳴る彼の前で立ち止まり、そちらを平然と見返すのは、寝子島の観光大使『サンマさん』こと寝子サンマだった。
「よく言うぜ。ここでは、何度も会ってるだろ」
　しれっと返して、サンマさんは彼の隣のスツールに腰を下ろす。
　それをむっつりと見やり、マグロは小さく舌打ちした。
　サンマさんをライバル視している彼だが、さすがに憩いの場と考えているこの喫茶店で事を構えるつもりはない。
　彼はマスターをふり返ると、寝子丼を注文した。そして、サンマさんに指を突きつける。
「奢りだ、マグロ食えよ！　そしてマグロの偉大さを知って崇めろよ、サンマ野郎！」
　言うだけ言うと、彼は鼻息荒く、自分の席に腰を下ろした。
　やれやれと、両手を広げてみせるサンマさんに、苦笑しつつマスターが「少々、お待ち下さい」と声をかける。
　うなずいて、サンマさんは寝子丼が出来上がるのを待つ体勢に入った。

　そのサンマさんの隣のスツールに、身軽に飛び乗ったのは、タルトである。
「うにゃにゃーん」（カナト先輩、この二人の写真もお願いします）
　尻尾をゆらゆらさせながら、カナトの方へと声をかける。
　彼女はさっきから、カナトにスマホで自分の姿や店内を、写真に撮ってもらっていたのだった。あとで、写メを送ってもらうつもりなのだ。
　その写真を元にイラストを描いて記事をつけ、週刊誌『寝子島タブロイド』に投稿しようと考えているのだった。
　カナトが苦笑しつつ立ち上がり、カウンターの方へと歩み寄る。
「にゃ～ん」（サンマさんとマグロさんのツーショットって、ウケそうだよね～）
　カナトが写真を撮るのを眺めつつ、彼女はそんなことを言う。
　ちなみに、平然と写真を撮られているサンマさんに対して、マグロはなんとなく嫌そうだ。
　それに気づいて、カナトが尋ねる。
「ひひーん」（写真は、ダメかい？）
「いや。ただ、サンマと一緒ってのが、嫌なだけだぜ」
「にゃーん」（我慢してよ～。ツーショットがいいんだから）
　マグロの答えに、タルトが返した。そして、ふと思いついたように尋ねる。
「にゃん」（あっ、マグロさんは、攻めですか？）
「お、おう」
　問いの意味はわからなかったものの、サンマさんの前で知らないことがあると表明するのもシャクだとばかりに、マグロはうなずく。
　途端。
「俺を受けにする気か！」
　と、サンマさんが怒り出した。
「おう！　上等じゃねえか！」
　よくわからないままに、売り言葉に買い言葉で、マグロも言い返す。
　そのまま睨み合う二人に、タルトは笑い出した。
「にゃにゃ～ん」（やっぱ二人の組み合わせって、ウケる～）
　更に大笑いしていた彼女だが、ふいに笑い止んで、ピンと耳と尻尾を立てる。
「にゃん」（あ、そろそろ人間に戻りそう……）
　短く鳴くと、彼女はカナトをふり返った。
「にゃにゃん」（カナト先輩、写メ、頼みますね）
「ひひん」（大丈夫、忘れないよ）
　うなずくカナトに、彼女は小さく耳を動かすと、スツールから飛び降りた。
　そのまま、彼らに別れを告げるように小さく鳴くと、彼女は店を出て行ったのだった。

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