装飾譚：スポーツアイテム「トモエ」｜リアクション

装飾譚：スポーツアイテム「トモエ」

買い物が終わって店を出ようとしていた碧南と月乃は、同じクラス・10組の笠原ひびきとばったり出会う。ひびきは桜庭円と一緒だ。彼女たちはこれから買い物のようだ。
「こんにちは、ボクは桜庭円。ボクシング部の部長なんだ。いつもひびきちゃんがお世話になってます！！」
「……いや。まあいいけど」
円が元気に自己紹介する横で、ひびきがなんともいえない顔をしていた。
「ふたりは何を買いに来たの？　私はジャージとダンベルとタオル」
月乃が水色のダンベルとタオルが入った袋を軽く持ち上げる。ちなみにダンベルは2キロ×2個。
「あたしたちは部活関係。足りないものを適当にって感じかな」
「私も部活用にシューズを買ったの。今のバスケットシューズ、ぼろぼろになっちゃったから」
「運動部は出費がかさむな……」
「そうそう」
ひびきと碧南は難しい顔をしてうんうんと頷き合う。その横で、円は月乃にいちご味のアメを貰っていた。
碧南たちと別れ、ひびきたちはボクシングに役立ちそうなグッズを見て回る。ひびきは必要なものを思い浮かべた。パンチングバッグに……タオルはいくらあっても困らない。あ、あれはどうしよう。
「部長、サウナスーツって必要かな」
「うーん、どうだろ。女の子は欲しい子いるかもね！　でも、ボクの場合サイズがあるかな」
「これなら着れそうだけど……試着してみるか？」
「わーい……って！？」
「試着室はあっち。荷物は持ってるから。これでも大きかったら店員さんにき――」
「ストップストップ！　ちょっとー！　これ、子供用だよ！！」
（む。気づいたか）
「き、きっと背が伸びてすぐに使わなくなっちゃうし。このサイズは遠慮するよっ。最近、シューズとかインナーが窮屈になって来たし！」
（じーー）
「もーっ！　ボクはいいから、ひびきちゃん試着してきてー！　はいこれ！」
「ととと。部長、背中を押さないでくれ。着るから。転ぶ転ぶ！」
ひびきは黒のサウナスーツに着替えて鏡に自分を映す。サイズは問題ない。女子は勿論のこと、小柄な男子部員も着ようと思えば着れそうだ。
「かっこいいぞ、ひびきちゃん！」
「これ、うちの部で使うかな」
「そうだねえ。試しに男女１着ずつ買ってみて意見聞いてみようか。今日はマットやロープの予備も買わなきゃいけないしね」
「了解。トレーニングアイテムも増やしたいな」
「うんうんっ。ボク、縄跳びが欲しいよー。やっすいゴムじゃなくて、本格的なのが欲しい！」
ふたりは予算と相談しながら備品をそろえた。一定以上の金額を買うと宅配してくれるサービスがあったので学校に届けてもらうことにする。重いの覚悟してたから嬉しいね、と円が笑った。
「シューズも見よーよ！　こういうのは実物見ないとねっ」
「そうだな。足に合わない靴はよくない。走るとすぐに靴擦れする」
「うんうん。それにボクシングはずっとつま先立ちだからね。安くてそこそこいいのが欲しいかな。店員さん、すみませーん！」
店員を呼び足に合ったシューズを出してもらう。ひびきは新作の黒いシューズが気になった。持ち上げてみると軽い。
「ふーん、足の幅も合ってる。値段もまあ、これくらいなら」
つま先を指で押しながらひびきが頷く。どうやらこれを買うことに決めたようだ。
「ボクはこっちの赤いリングシューズが気になるな。結構踏ん張りも効きそうだし！」
円は試着をすると、シュッシュとシャドーボクシングを始めた。軽快にステップを踏む。
「いいねーこれ！」
どうやらお買い上げらしい。
「部長。ほかに何か買う？」
「部活関係はこれくらいかな。あとは趣味のモノも見ときたいっ」
はて、趣味。ひびきは内心首をかしげる。
「ほあちょー！」
そんな彼女の戸惑いをよそに、小さな部長はビシリと中国武術の型を真似した。

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