猫鳴館、Ｇ襲来！｜リアクション

猫鳴館、Ｇ襲来！

●みのりんホームズとちくワトスン君の調査

　人差し指に嵌めたちくわから、Ｇの群れ目掛けて一筋のビームが放たれる。
　運悪くそれに直撃した一匹が、かちこちに凍って動きを止める。
　＜ちくわ☆ビーム＞で対象を仕留めた新井すばるはちくわを外して白手袋を嵌め、凍ったＧを摘まみあげる。観察は推理の母。ポケットから取り出したのは探偵七つ道具のひとつ、ルーペだ。
　ややあって、すばるはルーペから視線を上げると云い切った。
「ごく一般的なクロゴキブリだね」

　玄関先で作戦会議が行われていたちょうどその頃、Ｇの蔓延る旧館１階の廊下では、右手にハエタタキ、左手に液体洗剤、手袋と帽子で戦闘準備を整えた神野美野梨とそのワトスン兼ナイト役を買って出たすばるが、Ｇそのものを調べていた。
「クロゴキブリ。その名の通り色が黒く、羽根には脂ぎった光沢がある。体長は２～３センチ。大きいものだと４センチにもなる。動きが素早く、飛ぶこともできる」
　すばるは、ほら、と美野梨の目の前にそれを差し出す。きゃっ、と顎を仰け反らせた美野梨だったが、目を逸らさなかったのはさすがだ。
「……も、もうちょっと離してくれる？」
「ごめんごめん。チャバネと並んでメジャーなゴキブリだね。もちろん猫鳴館にいたっておかしくはない。こんなに大量じゃなければ、だけど」
「問題はそこだわ。何故、突然大発生したのか。夏中知らないで同居してた、ってのはあまり考えたくない可能性だし、如月君の云うことが本当なら辻褄が合わない気もする。……ねえすばるくん、ゴキブリの身体、もうすこしよく調べてみない？　なにか変わったことはないかしら」
「なるほど、やっこさんたち油っぽいからヒントがくっついてるかもね」
　すばるは改めて手の中のＧを横にしたりひっくり返したりしはじめた。
　ところがＧたちは、ふたりをのんびりさせてはくれなかった。
「きゃっ！」
　黒光りする一群が羽根を広げて飛翔し、美野梨に襲い掛かる。美野梨はハエタタキと液体洗剤で応戦しようとするが、足がすくんでうまく行かない。
「すばるくん、助けて！」
「神野さん！」
　すばるはちくわ☆ビームでそいつらを次々と打ち落とす。
「身辺警護もおまかせＯＫ、神野さんには一匹たりとも近寄らせないよ」
「ありがとう。……あら、これは？」
　美野梨が摘まみあげたのは、凍ったＧの身体についていた、真っ赤なかけらだ。
　すばるがルーペで観察する。
「花びらのかけら……ああ薔薇か」
「きっと、アレクサンダー先輩が撒いた薔薇ね」
　鷹取洋二の友人、二年芸術科のアレクサンダー。星ヶ丘寮生ながら本日の勉強会に参加した彼は「僕は薔薇の上しか歩かない」というその奇天烈な信念と、それを実行する特異さゆえに、一夜にして猫鳴館中にその名を轟かせていた。
　すばるは少し首を傾げる。
「アレクサンダー先輩が撒いた……なんだろう、ひっかかるな。先輩はどこに薔薇を撒いたって？」
「歩いたところすべてに撒いていたようよ。２時間くらい前に見たときは廊下じゅう真っ赤になっていたし……あら？　でも、私が夜中に水を飲みに行った時はどうだったかしら……黒い色しか記憶にないわ」
「なんだか気になるね。薔薇か……どこに撒かれたか調べてみよう」
　すばるはそういうと、美野梨にぱちんとウィンクした。
「この謎はきっと解ける。さ、Q.E.Dを目指してみようか、みのりんホームズ」