ねこじまフラッグファイター｜リアクション

ねこじまフラッグファイター

●Ｄブロック
「いざゆかん、栄光のフラッグへ！」
　胸を張る武道はブーメランパンツの水着がやけに映えていた。水泳が強みというのもあるだろう。堂々とした態度もまた理由かもしれない。
「この勝負、探検資金を得るためにも負けられないな」
　安全第一。質実剛健。そんな言葉が似合う豪は一般的な水着を着用している。焦りや昂ぶりなどはケガに繋がる。だからこそ彼は落ち着きをはらうのだった。
「三万えぇんは、このブドーが頂くぅ！」
「興奮するのはいいけど、ハメはずすとケガするぜ。注意一秒怪我一生！」
「わかっているんだぜーィ」
　高揚気味の武道に豪は思わず苦笑。これはちょっとひと波乱ありそうだ。
　少し離れた場所には青年が１人。島外出身の男性だ。なおこの島との直接的な関係はない。
　スタッフの誘導に従って３人はスタート位置にうつ伏せとなる。
　高く突き上げられるスターターピストルから破裂音が響き渡る。３人が起き上がって砂を蹴ったのはほぼ同時だ。

　強気に見える武道であるが実際は違う。彼なりに前走者の動きから既にコースをイメージしていた。網での動き。平均台での歩き。そしてロングコースでの戦い。全てにおいて完璧だった。
　しかし現実とはなぜこうにも無常なのだろうか。
　豪とほぼ同時に網を潜った武道は勢いよく砂の上を泳ぎ始めた。確かに網に対して平行に移動すれば引っ掛かりはしないだろう。だが大ぶりな動きは確実に体力を消耗させる。
　藪をかき分けるかのように豪は網の下を進んでいく。手の動きはずいぶん慣れたものである。
　網を抜けて最初に平均台へとたどり着いたのは豪だ。次に力業で強引に抜けきった武道と、無難に乗り越えた青年となる。
　豪は重心の移動に心を配りつつ一歩ずつ確実に歩みを進める。
　武道が並んだ。そして何を考えたのか、彼は平均台の上で大きく飛んだ。ホップ、ステップ、ジャンプと――つまり三段跳びである。しかし現実は儚い。ステップの段階で見事に彼は足を滑らせた。
　そのまま平均台に尻餅をぶつける。変な姿勢も相まって音が鈍く響いた。
「おぉぉおおおぉおおお」
　痛さのあまり砂の上で悶え転げる武道。彼をしり目に豪は平均台を抜けた。後を追うように青年も平均台を抜ける。
　砂地を走る豪の後ろを青年が追いかける。徐々につめられる距離に豪は危機感を拭えない。砂は思った以上に滑る。地面や岩場と違い力がうまく伝わらない。蹴っても蹴っても砂が後ろに舞うばかり。
　フラッグを目前にして既に青年は豪と並んでいた。
　２人は同時に飛んだ。手を強く前に伸ばす。
　フラッグは押し倒されていた。起き上がって取ろうとする青年よりも早く豪が這って掴み取る。この瞬間勝負は決した。
　尻餅を撫でつつ武道がやってくる。
「なんだよゴーくーん、俺たちにはスポーツマンシップはないのかよー」
　起き上がって砂をはらい落としながら豪は言った。
「勝負事に慈悲はなし、そうだろ？」
「意地悪だなー」
　Ｄブロックは豪の勝利によって幕を閉じた。

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