本日の回答者はこっくりさんです｜リアクション

本日の回答者はこっくりさんです

放課後は剣術の修業にいそしむ御剣刀。足腰を鍛えるために徒歩で寝子島神社に向かう。背中にはケースに入った木刀を携えていた。
「こんにちは。ミスタ御剣」
カナリアのような可憐な声。寝子小の前を通るとき、ネミッサ・ネモローサが声をかけてくれた。スカートの端をつまみちょこんとお辞儀をされ、刀も軽く頭を下げる。ネミッサの後ろにはリアーネ・ライニオがいる。刀と目が合うと挨拶を交わす。
「こんにちは。ネモローサちゃん。お友達と一緒に遊びに行くのかな」
「ええ、今日はミス・ライニオと蔦薔薇の館に」
「ネミッサちゃんと一緒にコックリさんをやるの」
赤毛の少女たちが、ね。と目を合わせる。
彼女たちの話を聞いて刀は少し心配になった。少し前、百物語から怪異に巻き込まれた刀。コックリさんなどありふれた話ではあるものの、トラブルの多い日々を送っていると気になってしまう。
「やめろ、なんて無粋なことは言わないでね。ミスタ御剣」
……なんて考えていたら勘の鋭いネミッサにくぎを刺されてしまった。刀は苦笑する。
「日が暮れるのが早くなってきたから気を付けて」
「ええ。行きましょう、ミス・ライニオ」
「そうね。さようなら、お兄さん」
ふたりの少女が刀の脇をすり抜ける。

――Polly, put the kettle on,
――Polly, put the kettle on,
――Polly, put the kettle on,

マザーグースが風に流れた。

刀は寝子島図書館に立ち寄り情報収集をすると、考え事をしながら神社に向かう。到着すると白い紙に必要なことを書き10円玉を取り出した。
「あら、御剣さん」
巫女服の御鏡聖が刀に声をかけた。聖は寝子島神社に住み込みで修業をしている身だ。手には箒を持っている。掃除中なのだろう。
「掃除お疲れ様。どいたほうがいいかな」
「いいえ、大丈夫ですよ。今日は剣術はお休みなのかなって少し気になったんです」
ああ、と納得して刀は聖に紙を見せた。
「島でこっくりさんが流行ってるみたいなんだ。それで、ちょっとやってみようかと思って。神域の方が効果が高そうだしさ」
「こっくりさん！　わあ、懐かしいですね」
聖がころころと笑う。刀としばらく話をした後、掃き掃除に戻っていった。
さて。
「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください」
刀が言葉を紡ぐと10円玉が滑らかに動き出す。おっ、本当に動くんだなと感心する刀。怪事件が頻発しているせいか冷静である。
――動いたのを確かめられたからもういいんだけど。
と、呼び出されたこっくりさんが聞いたら怒りそうなことを心の中で考えた。
「ん～……と、いっても」
とりあえず、何か聞いておかないと。
自分の先のことについては聞くつもりはない。だって意味がないから。俺は自分の望みに必ず辿りつくんだから。その為に走り切ってみせるんだから。
「そうだな。『今日の夕食のおかずは何がいいだろう？』」
は、ん、ば、あ、ぐ。
「ハンバーグか」
が、す、き、だ。
「知らないよ！」
今回召喚されたこっくりさんはフランクな性格のようだ。
「えっと……俺は今日ハンバーグでいいのか？」
ち、が、う。お、ん、な、の、こ。
「は？　……え！？」
頭によく一緒にいる女の子たちの顔が浮かび、顔に赤みがさす。
あ、そ、び、に、さ、そ、え。
「そっち？　俺の質問は？」
い、い、か、ら。
「……」
悪霊じゃなさそうだけど、なんだかなあ。
「えーっと、遊びに行くならどこがいいでしょうか」
もやっとしつつ話を合わせてあげる御剣刀。かに座の16歳。
刀の質問にこっくりさんは『山』と簡潔に答えて、自主的に鳥居に帰って行った。
「……今回は放っておきたい」
どっと疲れた。両手を膝に置いて深いため息をつく。
「山、かあ」
耳福池の向こうを見る。山も衣替えの季節だ。

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