【身体測定】変身？普通？身体測定｜リアクション

【身体測定】変身？普通？身体測定

◆切ないこともある

　雨崎荒太郎は、誰に測定してもらえるのかちょっと気になっていた。
「鷲尾先生に測ってもらえたらいいなぁ……」
　そんな荒太郎の前に並んでいる本宮虎治は、気だるげに順番待ちをしていた。
　心なしか不機嫌そうに見えるようで、保健委員の女の子たちが怖そうにこちらを見ている。
（早く終わらねぇかね……）
　荒太郎は振り向くと、猫鳴館で顔なじみである虎治に気づいて、いつも着ているセーターをちょっと自慢した。
「このセーターは、ばあちゃんが風邪を引かないようにって、入学前に買ってくれたやつなんだー」
　といって、脱いだ途端にくしゃみをする。
「そうか……大事にしろよ」
　虎治の眼差しが柔らかくなった。
　虎治の右腕の数珠も、おばあちゃんからもらった大事なお守りなのだ。
（怖い人かと思ったけど……優しい方なのかもしれませんね）
　２人の様子を見ていた御巫時子も、気持ちがほっこりした。

　そして、ようやく荒太郎の番がまわってきた。　
（やった、鷲尾先生だ！　身長測られるって、すごくドキドキするなぁ……）
　荒太郎は、先生の大人の色気、香りをちょっと楽しむ。
「１６８ｃｍね、あっ……」
　色っぽい声と共に、なぜかつまずいた鷲尾先生の豊かな胸が、荒太郎の目の前に……
　荒太郎はのぼせながら喜びの声を上げる。
「わっ、胸が……！」
　しかし喜びもつかの間。添木牡丹の瞳から、光がすっと消えるのを見た荒太郎の体が総毛立った。
「あっ、手が滑りましたぁ……」
　牡丹の手からボールペンが飛び、荒太郎にヒット！
「あいたた……ごめん、この次は僕も手伝うよー」
　ほうほうの体で逃げ出す荒太郎の背中に、牡丹は言った。
「鷲尾先生をエッチな目で見ないでください！」

「あ、委員のお仕事お疲れ様です長瀬先輩、っとすいません」
　柏田貴弘は、測定票を渡すとき長瀬の手に触れた。
（……？　なんだろ、今先輩に触れた時変な感覚が……これはもしかして、……恋？　なーんて、そんなわけ無いか）
「風邪でも引いたかな……早く身体測定終わらせて帰って寝ようかな」
　そう思ったとき、衝立の陰から手招きされた。
「ねえ君、何か変化あったなら話を聞かせて？」
　セクシー女医ごっこを続けている円だった。
「おねーさんに相談してみなさい」
「変わったこと……そうだな。今までならこんな展開になったら回れ右をしてしまったはずだが」
「はずだが？」
「こうやって首を突っ込んでしまったことに自分でも驚いてる」
　しばらく話を聞いて、円は思った。
（やっぱり長瀬先輩が怪しいね……）

　
　大豪寺騎刃は不良である。
　しゃべる言葉は漢の中の漢が話す言葉、漢弁。
　高校生に見えない外見年齢と、身長の伸び悩みという問題を抱えてはいても。
　繰り返す、大豪寺騎刃は不良の中の不良なのである。
「くっくっく、今日のわしは一味違うけぇ。何せ、この日のために毎日牛乳１Ｌと煮干し１袋とおからと（中略）を食い続けてきたけぇのぅ！　そして！　昨日自分で計ってみたところ以前計った時より……身長が２ｃｍ高くなっちょる！！　勝てる……わしは、漢として、勝てる！！　うぉー、身長計測が楽しみすぎてそわそわしちょるわい」
　特に意味はないが、保健委員の長瀬志保ともがっちり握手を交わした。
　計測器にビシっと背筋を伸ばして凛々しく立つ。
「上等じゃあ！　思いっきり計ってみろじゃあ！」
　計測器の頭に当てる部分があたった途端。
　するすると騎刃の身長が縮んだ……
「……１５５ｃｍね」
「よしっ！今年のわし！身長ひゃくごじゅ……………？　ひゃくごじゅうご…せん……ち。馬鹿な！　そんな馬鹿な！」
「あ、ちょっと……」
　手招きする衝立の奥の手を振り切り、叫びと共に騎刃は走り去った……
　滂沱の涙を人に見られまいと。

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