夏のお泊り会｜リアクション

夏のお泊り会

☆こわいお話

　体育館に布団が敷き詰められ、歯磨きや着替えを済ませた子供たちが座りました。
　窓は暗幕が下ろされ、照明は薄暗くなっています。
「トイレは済ませましたか？　これから、ちょっとこわいお話をしますよ。小さい子がトイレに行けなくなると困りますから、そんなにこわくはないですけど」　
　ステージの上でマイクを持ったのは貝田麗子先生。
　５年生の担任で、お母さんよりちょっと年上。優しい先生ですが、怪談の名人です。
「怖い話ですか、どきどきわくわくしますね！」
　暁桜逢莉は目を輝かせました。
　ちょっと怖いですが、それ以上に知らないお話を聞けるというのが楽しみです！
「怖いお話、興味はありますか？　わたくしはもうどきどきしてます……！」
「べ、別に怖くなんてないし!」
　席をはずすという選択肢もあったのですが、そんな逢莉を見ていると、由貴はつい意地を張ってしまうのでした。

「寝子小には七不思議があります……」
　ゆっくり、静かに先生は話し始めます。薄暗いせいか、なんだか普段の先生とは違う人のようです。
　新井つくねは、模擬店の準備で疲れていました。
（お化けの話、しずかに話すからねむくなっちゃうのです）
　５年生はみんな、一度は貝田先生の話を聞いています。
　今回は前のとは違う話だし夜ですが。
　のんびりしているつくねは、お話くらいだとほとんど怖がりません。
「でも、お話はちゃんと聞いてないとダメだって先生が言ってたのです。ふぁ……」
　普段から眠るのが早いので、怪談話を聞きながら、ついうとうとし始めました。

　先生の話は佳境に差し掛かりました。
「物置小屋の屋根から、先生は言いました。『このボールかい？』
　気軽に投げようとした先生に、うつむいたままのその子は言うのです。
　『先生、もっと大事に扱ってください。だってそれはボクの……』」　
　子供たちの一部が、ごくりとつばを飲み込みました。
「うそ……どうなったの……？」
　普段は話すのが苦手なことですが、話にのめり込み、拳をぎゅっと握って先生を見つめながら、知らず知らずのうちに声が出ています。
「そう言われて、先生は手にとったボールをよく見ました。見てしまったのです……
　先生は息を飲みました。何だったと思いますか？」
「いやぁー……！　しらないしらないわかんない……！」
　嫌な予感に襲われて、ことは耳を塞いでいやいやしました。
　由貴は血の気の引いた顔で、耳を塞ぐこともできずに固まっています。
「ボールだと思っていたのは、子供の頭だったのです……！　その顔が、ニヤリと笑って口を開きました。『ボクの頭ですから』
　先生は悲鳴をあげてそれを放り投げました！」
　立て続けに悲鳴が上がりました。
「大丈夫です、みんなで体育館にいるのだから怖いことなんてありませんっ」
　臆せず強く聞きとげた逢莉は、怖がってる子が泣かないように応援してあげました。
　つくねは、目を覚まして、ふわぁと欠伸をして目をごしごし。
（頑張って起きていなきゃ……）
　そう思いつつも、やっぱり眠くて、隣りにいた逢莉にもたれかかってしまいました。
「こんな話聞きながら寝られるのってすごいですね……」
「ちょっと怖すぎたかしら」　
　先生がのんびりと言いました。
「ぜ、ぜんぜんこわくねーし！」
「ふるえてるけど？」　
　拳を膝に当ててガクガク震えている由貴に、逢莉がツッコミます。
「む、武者ぶるいだし！」
「なんで武者ぶるいなんですか、これからねるのに」
「び、貧乏ゆすりだし！」

　耳を塞いで震えていることに、姫がそっと触れて話しかけました。
「だいじょうぶ。私は幽霊さんの友達もいるからこわくないです」
（それ、もっとこわいんじゃないかな）
　と思いつつも、温もりに安心して、ことは耳から手を離すことができました。
　姫はその手を握り、にっこり微笑みかけるのでした。

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