応援！　甲子園！｜リアクション

応援！　甲子園！

○試合直前

　寝子高ベンチでは天馬ひびきが選手たちに飴をくばっていた。
「瞬間エネルギーチャージの魔法アイテムだよ！」
（やっぱり皆緊張してるよね）　
「おおきに、ひびきちゃん」
　だが飴を受け取った選手たちの緊張が少しだけ緩むのがわかった。
（まさか……俺が、スタメン……）
　スタメン入りを言い渡されたばかりの武蔵は、怖い顔をしていた。
（先輩達もこの時の為に頑張ってきたっていうのはわかるし、俺はまだ機会がある。でも……そんな事を気にせずに送り出してくれた先輩達もいる。
ならばそれに答えるのが漢ってものだよな）
「激戦の神奈川県大会を勝てたのも練習の成果が生きてるからよ。大丈夫、きっと大丈夫よ」
　ここぞとばかり応援の声をかけるひびき。
「相手も同じ高校生よ、睨み返しちゃえっ。ほらあの人なんかなんだかタコに似てない？」
　源太郎が吹きだした。
「ほんまや。なんか寿司握りたくなってきたな」
　源太郎の家は旧市街商店街にある寿司屋なのだ。
「みんな、勝利のお寿司、楽しみだねっ♪」　
　ひびきがウィンクした。
「よっしゃ、ほなこの試合もいっちょぶわーっといったろやないかい！　そんで祝勝会や！」
（……やらなきゃいけねぇのは分かってる）
「……この試合勝つぜ！」
　武蔵も静かな気合をにじませた。
　
　一方こちらは応援席。
　修と美咲紀はタオルを頭にかけた校長と日傘をさした理事長の隣の席に座った。
「準備も初めてで大変だったと思いますが、出場をどう思われてるか生の感想をお聞かせください」
　修がマイクを向けると校長はいつもの調子で、
「いやー、嬉しいね。準備は黒崎くんに任せたから私は別に苦労してないけどね。こうなったら優勝を目指して頑張ってほしいね」
「理事長先生はいかがですか？」
「そうね、うちの生徒たちもなかなかやるわね。黒崎君はいろいろ苦労してるようだけど、私も優勝インタビューが楽しみだわ」
　どう見ても、自分がインタビューされるときのことを想像している理事長。
「……ありがとうございました」
　顧問の苦労が偲ばれる修だった。
「実は私、野球のルールが良く解っていないのです。校長先生と理事長先生は詳しいんですか？」
　美咲紀が言う。
「うーん、子供の頃は虫ばかり追いかけていたし、あまり詳しくはないね。打ったら一塁に走るのは知ってるよ」
「点を多くとれば勝ちだし、難しいこと考えなくてもいいんじゃないの？」
「そうですか。解説役は任せてください」
　想定内だな、と思いつつ修が言う。
　そこへ、サイレンが響き渡った。
「ひゃあ？！　か、火事ですか？」
「落ち着いて、椿さん。これはあれよ、きっと防災訓練ね！」
「えっと、椅子の下に隠れたほうがいいんでしょうか？」
「空襲警報かと思った」
　三人のずれた反応に周囲からクスクス笑いが漏れている。
「……サイレンは高校野球の試合開始の合図です。終了の時にも鳴ります」
（椿で慣れているとはいえ、これは大変そうだな）
　苦労を予感する修だった。　　

　甲子園から遥か離れた寝子島では、宮祀智瑜が旧市街の自宅でＴＶに見入っている。
「いよいよ始まりますね」
　自分の部屋ではなく、一階の居間で応援だ。
　ここなら点が入ったら店に出てるお祖父ちゃんたちにすぐ報告できる。
「あっ、義弘先生！」
　監督がテレビに映る時間はごくわずかだが、思わず立ち上がって傍で見たくなってしまう。