応援！　甲子園！｜リアクション

応援！　甲子園！

○押忍！　応援は任せろ

「すごーいここが甲子園！　ここで全力で応援できるなんて、応援団に入っててよかったなぁ」
　興奮を隠せない様子で、応援団員の深民実々は応援席から球場を眺める。
　同じく黒いロングの応援団服を着た副団長のママキューこと不破灸がいぶかしげに尋ねる。
「あれ、みみ、メガネどうした？　忘れたのか？」
　確かにいつもはメガネをかけているのに、今日の実々はメガネ無しだ。
「その、しんきょーの変化っていうの？　応援してるときぐらい素顔でもいいかなって。それに演技中のメガネって邪魔だったんだよねー」
「なるほど、メガネを外して応援に集中か。気合い入ってんな。よし、さっそく応援準備だぜ」　
　檜舞台を得た灸は、早くも声を張り上げる。
（応援団のカッコよさを見せつけてやらなきゃな）
「フレー、フレー、寝子島！　フレッ、フレッ、寝子島！」
　そこへチアリーダーの一団がやってくる。
「私たち、甲子園で応援したくて結成したチアガールです。よろしくお願いします」
　ミニスカートから伸びる健康的な脚に、灸の視線が釘付けになる。
「お、おうよろしくな！」
（俺もカッコよさを見せつけて……黒崎センセのようにモテモテに！）
　さらに熱くなる灸。

　新聞部の修と美咲紀はビデオとカメラを持って応援団席へやってきた。
「高校野球は応援も随分盛り上がるので、応援の様子も含め取材しなきゃなのです。写真沢山撮らなきゃ」
「こんにちは、新聞部です。お話を聞かせてください」
「やあ、取材かい。お疲れ様」
　団員の陰から黒崎教頭が顔を出した。
　応援団の顧問である黒崎は、新聞部の顧問でもある。
「準備も初めてで大変だったと思いますが、出場をどう思われていますか」
　修の問いに黒崎は答える。
「寝子高の前回の甲子園出場は君たちが生まれる前の話で、準備的には初めてに近いくらいだったね。
いろいろ大変なことはあるけど、本当に嬉しいよ。頑張ってもらいたいね」
「応援団の人達、黒ロングツメエリだと、グラウンドで試合している野球部員よりも太陽との戦いは厳しそうです。
　熱中症との負けられない戦いがここにはあるっ!」
　美咲紀の手には熱中症指数計があった。
「ネコタの屋外熱中症指数計を持ってきましたが、あっという間に危険ゾーンへ振りきれてます。女性の団員さんもいますけど、大丈夫ですか？」
　マイクを向けられた実々は元気に答える。
「はい、大丈夫です。大声を出すのが得意なのとカッコよさに惚れて応援団に入りました。練習もしっかりしてますから、平気です」
「ありがとうございます。これ差し入れのカチワリ氷です、頑張って下さいね」
　美咲紀はカチワリ氷を実々に渡して、チアリーダーのほうへ取材に向かった。
「ママキュー、カチワリもらっちゃった……ってママキュー大丈夫！？」
　実々は、灸の鼻から赤いものが流れだしているのに気付いた。
「鼻血出てるよ……これ、ハンカチ使って！　あと冷やして！」
「うおっ！　すまねえ」
　慌てて鼻を押える灸に、実々はハンカチとカチワリを渡す。
「あとは私に任せて日陰で休んでてね、いーからいーから無理しないで！」
「い、いやそういうわけには」
（言えねえ、チアリーダーの太ももを見て鼻血を出したとは、ぜってえ言えねえ）
　鼻血が止まるまで日陰で休まされることになった灸は、試合開始までに鼻血を止めるべくカチワリをハンカチに包んで鼻を冷やし、チアリーダーから視線を逸らすのだった。
　

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