こびとになっちゃった！～隠れ里に遺された落神伝説～｜リアクション

こびとになっちゃった！～隠れ里に遺された落神伝説～

●クローネの望む世界

　荒ぶる力は大波のように溢れて満ち、隠れ里を覆い尽くす。このとき、すべての人々は見た。

　　雲はイチゴ。森もイチゴ。
　　イチゴの池に浮かぶイチゴの舟。
　　イチゴのバルコニーとイチゴの尖塔をもつイチゴの宮殿。
　　ふわっふわピンクのドレスで乙女に決めたクローネは、
　　長椅子に寝転びながら積み木のように積み上げたイチゴを一つずつ摘まみ、どこで崩れるか遊んでいる。
　　イチゴを山ほど入れた硝子の器を手にしたイケメンが、代わる代わるクローネの口にイチゴを入れる。

「……」ターザンごっこをしていた佐藤タカシも。
「なんだ……？」かまくらを再建していた琴櫻輝之助も。
「かわいい、かも……」猫に凭れて読書していた勅使河原悠も。
「クローネさん……」鉄衛守も、その腕の中で意識を取り戻した大天使天吏も。
　――この隠れ里にいた誰も彼もが。

◇

　突然脳内で爆ぜたこの光景に、桜井ラッセルは混乱した。
　ラッセルだけじゃない、この唐突なイチゴワールドを見た者のほとんどが何がなんだか分からなかった。
「これはどういうことだ？　世界がイチゴだらけじゃねえか！　これがクローネが望み？」

「あらやだ、恥ずかしい～～！　私の超深層心理がうっかり～～」
「え……」
「ともかく～私たちはぁ～、世界を楽しくしてあげようっていうのよ。今の世界よりずうっとねぇ～。
　そこのあなたの望みも、そっちのキミの望みも、み～んな叶うのよぉ？
　あんたたちのつまんない世界では本来並び立たないすべての願いが叶う混沌！　フフン、素敵でしょう～？」

「え、それ、いいかも」心揺れる者。
「でも、そんなのありえないよ」訝しむ者。
「そんな世界の何がいいんだ」ぼそりとつぶやくテオ。

「……そんな都合のいい世界、実現できるわけが……」
　誰かの呟きが記憶の琴線に触れる。
　そういえば以前クローネはののこの記憶が失われているという事を気にしてはいなかったか。
「もしかして……ののこさんが、何か……？」
　それだけ呟くと宮祀智瑜は気を失う。暴走で力を使い果たしたのだ。と同時に断たれるヴィジョン。

◇

「ってわけでぇ～、サービスタイムはおっしまい！」
　タイミングよく、クローネの取り巻きたちが洞穴に舞い降りた。
「ポテト！」
　名を呼ばれたカラスが、エレノア、瓢、そして茉菜を背に乗せる。
「あんたたち、あれだけのことをしでかしてこの場に留まるのは愚の骨頂よぉ～？
　私はあんたたちを助ける。あんたたちは私に情報を渡す。交渉成立、ってことでオーケー？」
「ええ。ひとまず、今のところは」
　そう答えたのはエレノアだ。
　クローネはにやりと笑うと人間たちに翼を振り、ポテトや他の取り巻きたちと飛び立つ。

「じゃあね～！」

　幾人かが追い掛けようとしたがクローネとカラスたちは速度を上げ、みるみる黒い点となった。