仁義なきアウトレット・ウォーズ｜リアクション

仁義なきアウトレット・ウォーズ

「……？」
「マキナさん、どうしたの？」
「……ううん、何でもない」

　若菜の視線を感じ振り返ったのは、羽衣の彼氏……ではなく。確かに羽衣の隣を歩くデート相手には違いないが、そう、神野マキナは決して『彼氏』ではない。後ろ姿だけではまあ誤解されることもあろう。幸い、羽衣もマキナも若菜の妙な尾行にまだ気づく気配はなさそうだ。何も知らずにのんびり買い物を楽しんでいる。

「あ、マキナさん！　あのお店のマネキン、かっこいいよ～」
「おー、いいね。こういうTシャツ好きだよ」
「あっ、そっちじゃなくってこっち！」

　ユニセックスなアイテムを多く展開しているショップの前で立ち止まる羽衣。正面のマネキン三体が着ているのはサルエルパンツやシンプルなカットソーなどだったが、羽衣が指差したのはオフホワイトのデニム生地に淡いブルーのハイビスカス柄が描かれたホットパンツ。すらりと伸びたマネキンの脚はローヒールのアジアンテイストなミュールを履いている。パンツスタイルではあるが、普段のマキナならまず選ばない組み合わせだ。

「すごいね、こんなに短いと勇気いるなあ」
「マキナさんスタイルいいし、脚も長いから！　隠しておくのもったいないよ」
「そうかなー？　なんか照れるね、ありがと」

　ひとりで買い物をするとどうしても好みで偏ってしまうから、こんな風に誰かに選んでもらえるのは新鮮な体験だ。ちょっぴりはにかみながらホットパンツの陳列されている棚に向かい、自分のサイズを探すマキナ。

「うん、スニーカーでもサンダルでもいけそうだ。トレンカも合うかなぁ」
「きっと似合うよ！　見てみたいな」
「じゃあお会計してくるね」

　自分の見立てを気に入ってくれたことが嬉しくて、羽衣はマキナのレジを待ちながらひとりうきうき。自分ばっかり楽しんで、マキナをあちこち引っ張りまわして退屈じゃないかなとほんの少し心配だったが、マキナもああして買い物を楽しんでくれているのが分かるとつい顔もにやけてしまう。

「お待たせー。羽衣ちゃんは何か買わないの？」
「え、あたし？　いいよー、マキナさんの服見てたほうが楽しいもん」
「若い女の子が何言ってんの、ほらほら行くよー」

　マキナも充分若いのだが、それはさておき。アクセサリーや雑貨を扱うショップに羽衣を引っ張って行き、羽衣の明るい色の髪に似合うものを物色し始めるマキナ。

「羽衣ちゃんは髪の色が可愛いから、服はシンプルでいいんだよ。その代わり小物でさ」
「わぁ、かわいい……！」

　存在感のあるカチューシャや大きなリボンより、シュシュや大きめのビジューをあしらったポニークリップのように、ワンポイントで目立つもののほうがいいというアドバイスを受け、羽衣は鏡の前でマキナのおすすめをいくつか手にとってみる。マキナが選んで羽衣につけてやったコーラルピンクのリボン地にライトブラウンのドット柄シュシュは元気で可愛い印象で羽衣にぴったりだ。

「えへへ、ありがとう！　嬉しいなぁ」
「どーいたしまして。他にも見ようか？」

　遠巻きに見れば七割……いや八割の人間がデートだと思うそのきゃっきゃうふふな羽衣とマキナの光景を、相変わらず若菜ははらはらと尾行して、いや見守っていた。気づかれないのをいいことに、同じショップで別の棚を見るフリをしつつばっちり二人を凝視している。面白そうだからとノリでついてきた蘭月はそろそろ呆れ顔だ。

「ええやん、フツーに声かけたりぃや」
「だ、だって知らない男の人と一緒だし……デートなら悪いじゃない？」
「難儀なやっちゃなー。あ、二人とも行ってまうで」
「あ！　……って、蘭月ちゃん、しーっ！」

　別のショップに移動しようとするのを蘭月が指差すと、ちょっと目を離していた若菜が慌てて振り返る。うっかり出てしまった大きな声は若菜のものなのだが、蘭月はとんだとばっちりだ。

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