寝子電、ラッピングコンテスト！｜リアクション

寝子電、ラッピングコンテスト！

●よくばりサンマさん

　旧市街に住む御剣刀は、目つきが鋭くやや無愛想な少年だったが、その胸には寝子島愛が溢れていた。
（俺は絵が上手いわけじゃないけど）
　応募用紙を手にした刀はそれをじっと見つめながら思った。
（寝子島を宣伝したら街も活性化するよな。頑張ろう！）

　テーマは一つって話だけど……と、家に帰った刀少年は、くるくると鉛筆を回しながら考える。
（この際どーんと派手に行こうじゃないか、俺は『秋』『寝子島』『褌』の全部入りで行くぜ！）
　例え失格しても構わない、と刀は思った。これは気持ちの問題だから。
　それに、『褌』というテーマは心当たりがありすぎて無視するわけにもいかない。
　なにしろ彼はこの夏、『寝子ヶ浜ビーチ☆スターズコンテスト！』に友人と赤褌姿で出場し、賞までいただいてしまった。つまりリッカルド町長の誤解の種のひとり、というわけである。

「『ビーチ☆フンドシスト賞』を貰った者としてやらねばならないだろう！
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　……あっ絵心ないんでその辺りは勘弁な」

　と、華やかな思い出のワンシーンとともに決意も固まったところで。
　描くのはまずサンマさんだ！
（彼には『秋の味覚の秋刀魚』と『寝子島の観光大使』という二つの要素が詰まっている、彼を描けば『秋』と『寝子島』の二つをクリアできる）
　サンマさん着ぐるみにも入ったことのある刀だ。サンマさんのフォルムはすぐに思い描くことができた。
（電車は走っているんだしサンマさんにも走ってもらおう。
　疾走する電車とサンマさん……うん良いな、何となく俺らしいし）
　竹刀を振う時と同じ一生懸命さで、刀は鉛筆を走らせる。
　頭の中に思い描いたラインを紙に写し取るのは意外に難しい。
　刀はなんどか消しゴムを掛け、自分の知っているサンマさんのボディに近づけてゆく。
　顔はサンマらしくシャープに。お腹のあたりは脂の乗ったかんじにカーブを描いて。
　口もとをちょっとにっこりさせて、まんまるの目玉を描き入れると、なんだか愛嬌のある顔になった。
（更に！　サンマさんに『褌』をはかせれば完璧だ！）
　刀は果敢に三つ目のテーマにも挑んでゆく。
（という事でそれが伝わるように絵を描けば良い訳なんだけど、それが一番難しいんだよな）
　刀も、空音と同じ「サンマってどーやって褌締めるの？」問題にぶち当たってしまったのだ。まあしかし、なんとなくでいっか、という感じで、刀もわりとすぐにその問題をクリアした。
「できた……」
　渾身の褌サンマさんを描き終えた刀は紙を持ち上げ、しげしげと出来栄えを眺めてみた。
「んー」
　壁に貼って遠目にも見てみる。なにか物足りないような気がする。
「こうして見るとサンマさんだけだと寂しいな。紅葉や銀杏の葉とドングリも入れてみようか」
　刀は再び紙に向かうと、赤い紅葉と、黄色い銀杏と、茶色のドングリを描き入れ、それぞれにくるくると可愛らしいおめめをつけてみた。
　最後に電車全体を水色で塗って――。
「よしできた！　じゃあこれを送って完了！　他の人達はどんなラッピングをしたんだろう、楽しみだな」

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