【２】

　哀坂 零葉がその奇異な集団と遭遇するまで、さほど時間は掛からなかった。
　クラスメイトがスカートをめくられたり、ボディタッチを迫られたりと散々な目にあったと聞き、心配で様子を見に来たのだが。
「今、気が付きました。……私より女の子らしい方なんてたくさん居ますし……、私を狙う事なんて無いでしょうね……」
　家庭環境の影響ゆえ、自身に強いコンプレックスを抱いている哀坂。
　女性としての魅力が決定的に欠けていると思い込んでしまっており、落胆してしまった。
「私なんか、胸は絶壁だし、黒タイツで地味ですし、愛想もないですから……」
　目の前で乱痴気騒ぎとなっている光景に、彼女は深い溜息を吐いてしまう。
　だが、それに反応する変態も、この世の中には存在するわけで。
「俯いたクール系美少女、良いぞ良いぞ！　しかもちっぱい！　ひんぬーのことなら任せろー！！」
　隊員Ａこと行梨 謡、仲間と共に哀坂をロックオン！
　その左手には、お手製の『うさぎさん変身キット（もふもふうさ耳カチューシャ）』が握られている。
「その子を捕まえるんだ！　狙われないと油断している今がチャンス！　究極(うさぎ)と至高(貧乳)の融合を実現させるんだ……、イェッス！」
　隊員たちがショッキングピンクの全身をクネらせ、哀坂を取り囲んだ！
　まずは挨拶代わりの変態技『360（スリーシックスティ）オープンスカートめくり』が炸裂！
「隊員たちが一斉に女性のスカートの裾を全方位から捲る連携技！　女性はスカートを抑えることが出来ず、ぱんつは無防備に晒される！」
　興奮しながら解説する行梨の言葉など耳に入らない哀坂、数秒間は何が起こったのか理解できないようだった。
　黒いタイツ越しに透けて見えるぱんつが、とてつもなく扇情的すぎる。
　隊員たちはもちろんガン見である。
「もしかして、スカート捲られてるんですか、私！？」
　理解力が追い付いた彼女は、黄色い悲鳴を上げながら周囲の隊員をソバットで蹴り払い始めた！
「～～～～～っ！！！」
　哀坂は羞恥のあまり言語にならない声を発しながら、次々と変態どもを蹴っ飛ばしていく。
「おっと、あまり暴れちゃ困るな」
　行梨、右手に持っている拡声器を掲げ、哀坂へ向けて話し掛ける！
『そのひんぬー、揉ませてください！』
　欲望にストレートな発言だが、これは彼のろっこん『他律による略奪』なのだ。
　行梨の意外にも良い声を拡声器越しに聞いてしまうと、なんとその者はメロメロに魅了されてしまうのだ！
「や……、やめて……くださ、い……」
　行梨のろっこんに抗おうとするも、次第に哀坂は魔性の声の虜となってしまう。
「よしよし、いい子だいい子だ。いい子にはこのうさぎさんの耳の付いたカチューシャを付けてあげよう」
　完全に魅了されてしまった哀坂の頭に、もっふもふのうさ耳が装着されてしまった。
　これを見た行梨、思わず雄叫びをあげる！
「うおおおおっ！　今ッ、俺の目の前にー！　究極にして至高の存在が爆誕したぞー！」
　般若の面の下が嬉し涙で滴っていく。
　それを仲間の隊員が「おめでとう、おめでとう」と拍手で祝う。
「さぁ、いよいよちっぱいタッチだぞ！　まずは胸元のシャツを開くんだ！」
　魅了された哀坂は、何の疑問も持たずにシャツのボタンに手を掛ける。
　プチ、プチ、とボタンが外されていき、さぁ、御開帳と思ったその矢先だった。
「待て！　ちょっと、そこの集団！　ショッキングピンクの全身タイツってのは、まず趣味を疑うぞ！？　……じゃなかった、バカな事は今直ぐ止めてください！」
　変態の軍隊に待ったを掛ける男、ピアニスト志望の市橋 誉だ！
　男として、女子のピンチを庇わずにいられなかったのだ！
　なんという男前ピアニスト！
「その娘から手を放してください！　学校に露出が足りないとか、お色気要素が足りないことはないと思うので、そういう活動は結構ですから！」
　毅然と言い放つ市橋だが、脳裏にはあの日の出来事が蘇り、顔を赤らめてしまう。
「今、えっちなことを考えただろう？」
　隊員Ａ（行梨）に指摘され、市橋は全力で首を横に振った。
（あれは確かに恥ずかしかったけども！　今は目の前の女の子を助けなきゃ！）
「エロスとかそういうの公衆の面前で叫ぶのは、人としての羞恥心がなさ過ぎるんじゃないか？　穏便に……とはいかなそうだな……」
　やむなく鍵盤の絵を使用して、ろっこん『奏でるもの』によって大音量の不協和音を鳴り響かせる市橋！
「「うわぁぁ、うるせー！！」」
　これには変態たち、堪らず耳を塞いでしまう！
「……ハッ！？　なんで私、シャツの前を開けているのでしょう！？」
　市橋のろっこんによって正気を取り戻した哀坂、慌ててブラを両手で隠して慌て出す。
「早く逃げてください！　ここは俺に任せて！」
　市橋が哀坂へ向かって叫ぶ！
「大丈夫です！　貴女を護りきってみせます！　男子たるもの、女の子の１人くらい庇えずにどうするんですか！！」
「……ありがとうございます。この御恩は忘れません……！」
　哀坂は後ろを努めて振り返らないようにしながら逃亡。
　明らかに市橋のセリフが死亡フラグだった。
　それを見送る市橋、胸を張って変態の前へ立ち塞がる！
「さぁ、ここから先は通しません、よ……？」
　しかし、変態（♀）の視線を感じる……。
　
「やだ、イケメン♪」
「一本剥いとく？」
「オフコース！　いっそ剥くのは服だけじゃなく……、デュフフフ～♪」
　なんと、変態女子（全身タイツ＆般若の面）が市橋の近くへ這い寄っていくではないか。
「も、もしかしなくても……俺、ピンチなのか？」

「「ごっつぁんでーす！！」」

　変態女子の魔手が一斉に市橋へ触手のように絡み付く！
「え、どこを触って……！？　ちょ、ちょっと待て！　お前ら、人の話を聞いてたのか！？　あ、そこはっ、ダメ！　敏感なとこはダメぇぇぇ！？」
　変態女子たちから体中をもみくちゃにされる市橋。
　心なしか、彼の息が絶え絶えになっているのは気のせいに違いない。
　しかし、相手が変態でなければ、非常にうらやまけしからん光景である。
「お、俺は男だ！　セクハラされようが見詰められようが、恥ずかしくなんてない！」
　市橋、遂には半裸で仁王立ちを決め込む。精一杯の強がりである。
「来い、変態女子ども！　俺は逃げも隠れもしないぞ！」
　涙目の市橋、自ら人身御供となり変態女子たちを食い止めることに成功する。
　彼の功績は広く知れ渡ることはなかったが、確実に校内の男子の被害率を激減させる効果を持っていたことは、言うまでもないだろう。
　
「まったく……。変態は静かに暮らしたい（訳：こっそりわからないように色々堪能するから通報しないで欲しい）んだ。ああやって派手な動きをされるのは困る……」
　カメラマン志望の五郎丸 冬子は、顔をしかめつつ愛用のデジカメを握りしめていた。
　変態。それは世間一般から鼻摘まみ者とされる存在。
　彼女は男女問わず、乳（おっぱい）が大好きな変態女子高生なのだ。
　是非おっぱいを揉みたいが、彼女にも理性はある。故に写真に収めることで欲求を満たしている日々を送っている。
　だからこそ、おおっぴらに変態行為に打って出る桃色破廉恥小隊の存在が許せないのだ。
「……あの仮面を剥いで、いっちょお天道様の前に晒してやろう」
　こっそりと愛用のデジカメで小隊を撮影。そのデータをねこったーへ投稿。
「変態の軍隊、通行なぅ、と……。さて、変態ども、覚悟しておけ」
　この五郎丸の情報が、新たな戦線の拡大に一役買うこととなる。