ミエコ、再び｜リアクション

ミエコ、再び

　一方。
　長い髪をツインテールにした女子中学生、猫屋敷姫は目の前で繰り広げられる惨劇に、少し引いていた。
「うーん、可愛いのは認めるです……、が。
　何事も大きくなるごとに、可愛げが薄れていくものなのですよね」
　姫が言い終わらぬうちに、ミエコの飼い主・勉がミエコに突撃した。

「ミエコミエコミエコミエコミエコミエコミエコミエコミエコ、アッ――！！」
　勉はミエコの前足で返り討ちに遭い、青い服のお姫様の如く宙を舞っていた。

「ランランララランランラン～♪」
　猫耳キャスケットの柚瀬玲音が、ロリボイスで歌っている。
　７歳の彼女には、目の前で起こっている出来事も、どこかメルヘンに映っているのかもしれない。
「ねこー、つよーい！」
　キャッキャと手放しで喜ぶ、ロリ幼女。
　無邪気さという罪を愛らしさで浄化する、霊長類ヒト科の至高存在。恐るべし。
　やむをえまい。玲音は『ひと』だから、テオのメッセージを受け取れなかったのだ。
「ね、あんなおっきい、ねこーもいたんだね！」
「えーと……」
　同意を求められ、返答に窮する刀。
　仕事が適当な神のお陰で紛れ込んだ幼い玲音が、この案件を夢か何かだと思ってくれる事を切に願った。

　一方、舞い上げられた勉は、星にはなりきれず戻ってきた。地面に。
「おお、こわいこわい」
　姫が華麗にスルーし、勉は普通に激突した。
「ミ、ミエコ……」
　硬い地面に叩きつけられ、盛大に血を流しながら尚、勉は猛獣に指先を伸ばす。

「大変なのですー！」
　美咲紀は駆け寄ると、跪いた。
　勉の意識が僅かに、ミエコから駆け寄った美少女へ動いた。

　花も恥らう年頃の乙女が、僕を見つめている！？
　優しく微笑んでいる！
　僕は死んだのか？
　いや、いつから自分が生きていると錯覚していた。
　美少女や、イケメン（自分以外）ばかりの島で、可愛い猫達に囲まれて暮らしているのに！

「そうか、ここが天国か……」
　そして彼女はエンジェル。
　縋る様な視線を注がれながら、美咲紀は勉に問い掛けた。

「にゃんこちゃんを、まふまふさせてもらっていいですかぁ？」

　刀は、瞬間冷凍された。
「おぉっ！？　さすが美咲紀ちゃん、容赦ねぇのだっ！」
　真央の拳には、力が篭る。
　息を詰めて見守る夏朝に、振り返った真央は朗らかに問う。
「夏朝ちゃんは、腹肉、にくきう、ざりざり舌のどこ堪能希望なのだ？」
「……ん、と……」
　ショックのあまり混乱してしまって、すぐには答えられない。
　だが答えは明白だ。

　全てに決まっている！

「でも、爪だけは勘弁だよ！」
　ぱくぱくと、ハルくんが主張した。
「ミエコちゃん……やっぱり可愛いよね。
　飼い主さんとか、放っておいても良いのなら……沢山もふもふしたいな。ぷにぷにもされたい……！」
　ぽっと染まった頬を両手で包み込んで、もじもじ恥らう夏朝。
　こっちも可愛い。
　そんな夏朝に、美咲紀と真央も「きゃーっ♪」と同意の声を上げる。

　ここへ来て初めて、刀は勉に同情した。

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