闇曜日の旧市街｜リアクション

闇曜日の旧市街

　菅原は“酔っ払いの大学生カップル”には目もくれず、闇鴉会との打ち合わせに入った。
　菅原からは次の取引の情報が全て警察に筒抜けであること、そして一斉摘発のための準備が着々と進んでいることなどの情報が渡され、闇鴉会からは一介の刑事では手に入らないような大金が渡されていた。
　刻人とオーマは、折角だからとその様子を撮影していた。
　打ち合わせが解散となり、闇鴉会の面々は去っていくが、若い構成員が刻人とオーマのところにやってきた。
「おいガキども～。お前ら、何か聞こえたかあ～？　ああ～ん？」
　そう言って刻人の胸ぐらを掴んだ、その瞬間、オーマは迷うことなくその腕を取った。
　足を挟んでぐるっとまわると、構成員を地面に倒して、肩の関節を外した。
「ぐああああ」
　慌てて逃げる男を、オーマはゆっくり歩いて追いかけていった。
　刻人が待っていると、今度は菅原が戻ってきた。
「やれやれ……」
　そして刻人をじろりと、すべてお見通しと言わんばかりの目で見ると、
「こんなところにいたら危ないぞ」
　と警察の人間らしく近づいてきた。
「はあい」
　サッと警察手帳を見せながら、
「警察のもんだけどね、ここで何してたの？」
「いやあ、ちょっと面白いなと思いまして」
　刻人は、あえて撮影した写真を見せてやった。
「口止め料なんて、出ないですかねえ」
「口止め？　そんなことをする必要はないよ。市民生活を脅かす暴力団を取り締まっていただけだからね。君が巻き込まれると危険だから、削除してもらえると安心だけどね」
　刻人は屈託のない笑顔を見せた。
　次の瞬間、菅原の目つきが変わり、容赦なく刻人の顔面を殴った。
　と思ったが、殴られたのは、瞬間的に両者の間に入り込んだオーマだった。こんなこともあろうかと戻ってきていた。
「オーマ！」
　オーマの口は切れ、血が菅原の背広に飛び散った。
　オーマのろっこんは、その血が発動条件となる。菅原の背広を追跡することができる。これで、何かあれば対処できるだけの準備は整ったということだ。
　菅原は諭すように二人に語った。
「今日のところは勘弁しておいてあげるよ。子どもに汚されてクリーニングに出すのは日常茶飯事だしね」
　そう言ってスーツをパンパンと払った。
「市民生活のための努力をわかってくれるとありがたいね。君らはどっちだ？　正義か、悪か」
「僕は、正義の味方の味方ですよ。ふふふ。ほら」
　画像を削除してみせて、菅原の信用を買った。
　相手は警察である。下手に関わらない方がいいことは、オーマも刻人もわかっている。ろっこん発動の準備はしたが、しかしこれ以上の挑発は避けるのが賢明だ。
「うん、君は警察の味方だね。安心したよ。みかんでもお食べ」
「みかん……？」
　菅原はそう言うと、ポケットからみかんを２つ出して、彼らに渡して去っていった。
　刻人は、菅原の薬指にはまる結婚指輪をしっかり見ていた。
「真っ黒な刑事だったね。でも、薬指には結婚指輪があったし、幼い子どももいるらしい。そこを利用されてしまった、可哀想な人かもしれないな……堕ちるのは自分の責任だけどね～」

　警察署ではブンさんを中心として、一斉摘発を行うための準備を進めていた。
　既にその情報が闇鴉会にもたらされ、明日に迫った取引はその取引場所が変更になるのは必至だが、そんなことは知るよしもなかった。
　署に戻った菅原は、ブンさんとすれ違った。
「ブンさん、これどうぞ」
「おう。食べてる暇もないけどな」
　ブンさんはみかんを受け取ってポケットに入れると、慌ただしく出て行った。