●１２年目

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３月
【卒業式】
『初カレ』
　嘉島 和穂はちょっぴりおませな小学4年生。もうすぐ5年生になる女の子。
　そんな彼女の好きな人は、今日、卒業していってしてしまう。
　覚悟を決めて、その人を呼び出し告白する。
「……ケイト君、好きです！」
「ボクも、だよ」
　初めての彼氏ができた瞬間だった。

『初……』
　鳳翔 皐月は、卒業と同時に、先に卒業し大企業に勤めていた彼からプロポーズを受けた。
　そのことを両親に報告すれば、知っていたといい、すぐに結婚の許可がおりた。

　知っていた……？

　そのおぞましい言葉を反芻しながらも、皐月は結婚の準備を進めていく。

４月
【入学式】
『こっそりと』
　小学校の入学式は、在校生はお休みになる。
　なので嘉島 和穂は大好きなあの人の入学式をこっそり見に行くことにした。
「ケイト、今日は付き合ってよねー」
「いいよ」
「え、嘘～。今日はウチらとボーリング行くって言ってたじゃん」
「だから皆で行こうよ」
「もー」
「仕方ないなー」
　さっそくの大量ウワキに耐えられず、和穂はケイトくんとのことはなかったことにした。

『美しき日々』
　高城 律は再び筆を執った。そして、見事東京芸術大学に入学することとなった。
　一時はどうなることかと噂された天才の再起に、多くの大人が沸き、多くの教師が期待した。
　久しぶりに巨匠が生まれるかもしれない。
　その期待を一身に受けながらも、律は無心で絵を描き続けた。
【桜の頃に】
『誕生』
　早川 綾花、珪との間に元気な男の子が産まれた。
　珪石が石英であること、綾花の『花』房の意味があることから英という字を用いることになった。
　早川 英（はやかわ　えい）。両親に似た、綺麗な顔をした男の子だった。

７月
【夏】
『ふたりの恋の夢』
　グランドピアノの前に芽森 菜々緒は佇む。
　その後ろには、菜々緒を包み込むようにして霧生 深雪が立っていた。
「聞いて欲しい曲ってなあに？」
「聞いたらわかる」
　深雪の細い指先が、鍵盤にゆっくり、ゆっくりと沈み込んだ。
　音に狂いはない。――気持ちに迷いもない。
　深雪は深呼吸をして、菜々緒への思いの丈をピアノに委ねた。
　菜々緒に捧げる曲は、日本では『あなたが好き』や『お前が欲しい』と呼ばれる有名なシャンソン。
　繊細な旋律と濃厚な歌詞の対比が、フランスらしいといえる一曲だった。
　もう少しで曲が終わる。
　そのタイミングで、今までじっと深雪の腕の中で、深雪の指先を眺めていた菜々緒が身体を反転させ、深雪をまっすぐ見つめた。
「みゆ……私が欲しいの？」
　腕を引かれ、キーが狂う。
　最後まで引かせてもらえなかったのが不満で、深雪は眉をひそめる。
「菜々緒……」
「明晰ならざるもの告白にあらず、ね」
　そして菜々緒もまた、ハッキリとした愛の告白が欲しくてじれったく思っていたようだ。
　ならば仕方ない。
「……菜々緒。結婚してください」
「Evidemment, ça va de soi.」（もちろんよ）
　どちらからともなく口付けを交わし、体勢を崩した菜々緒が鍵盤に手をつき不協和音を奏でる。
　美しい音色も、この狂おしい和音も――平等に愛しく思いながら、2人の夜は更けていく。

８月
【真夏】
『誕生』
　野菜原 ユウと萌との間に第二子となる元気な男の子が産まれた。
　相談した結果、月兎（つきと）と名付けることとなった。

　姉の神夜はさっそくお姉さんぶって月兎をかわいがっている。

『結婚～』
　八神 修と七夜 あおいの結婚式始まった。
　本人曰く規模と華美さは抑えた結婚式だということだが、とてもそうとは思えない。
　そもそも会場が数百人は入れる日本最大級の教会なのだから。
　とはいえ、それも致し方ないことといえる。
　八神家といえば、相当の名家。みすぼらしい式を挙げるわけにもいかなかった。
　ほとんどの支度を終えた八神 修は、仕上げに父から譲り受けたネクタイピンを付ける。
　純金製のネクタイピン等、正直悪趣味だと言いたかったが、それで父と母が喜び涙を流してくれるというのなら、それはそれでいいだろう。
　修は諦めのため息を付いて、花嫁の控室に向かった。
「新郎様、新婦様のご準備は整っております」
「ありがとう」
　ちょうど、ヘアメイク担当の者と入れ違いになった。
　そして――その先で待つあおいの姿に釘付けになる。
　いつもツインテールをしていた髪は、今日は高い位置でまとめており、レースの小花がいくつも編み込まれていた。
　そして頭の中心部に煌めく、ティアラは代々八神家の花嫁が付ける伝統のもの。
　氷の華のような水晶とダイヤモンドから成る華やかなティアラは、普段のあおいとは違う新しい魅力を引き出していた。
　それからやはり目が行くのはウェディングドレス。
　中世の貴族を思わせるようなクラシカルながらも華やかなデザインのドレスは、すっきりとした顔立ちのあおいによくよく似合っていた。
　大きく開かれた肩には薄く繊細なレースで覆われており、膨らんだ袖には細やかな刺繍と数多のドレープがついていた。
　腰部分には大きなリボン。
　そこからドレスは切り替わっていて、メインの滑らかなサテン生地の下から現れたのはシフォンとオーガンジーがいくつも重ね合わされた華やかなティアードスカート。
「綺麗だ」
「修くん……」
「今すぐ抱きしめたくなる」
「……まだ、駄目だよ」
「……なら」
　掻き抱く代わりに、口付ける代わりに、そっと指を重ねる。
　絡めた指先は細く、熱い。
　あおいの手からレースの手袋を外し、指先に唇を落とす。
「修くん……」
「続きは、また後で」
　×　×　×
　家族、友人、知人、顔さえ知らぬ人。多くの人々に見守られる中、修とあおいの結婚式は始まった。
　何十人にも及ぶ楽団による聖歌が捧げられ、神の御名を呼ぶ。
　クリスチャンというわけではなかったが、この光り輝く教会を見ていると確かに信仰心らしいなにかが芽生えそうだった。
　ヴァージンロードを歩き、誓いの言葉に頷く。指輪の交換の際には、先ほどの指の交わりを思い出し、胸が熱くなった。
「それでは誓いの口付けを」
　ようやく、そのときがやってきた。
「あおい……愛してる」
「修くん……」
　ベールを外し、あおいと口付けを交わす。
　触れるだけの口付けではあったが、長く実に長い間重なっているのだった。
　×　×　×
「……ちょっと恥ずかしかったよ」
　新婚旅行へ向かう途中の空港ラウンジ（もちろんファーストクラス用）であおいは頬を赤らめそう語る。
「すまない。つい我を忘れてしまった」
「……ほんとに？」
　訝しむあおいを誤魔化すように、修はタブレット端末の思い出の写真をあおいに見せつけた。



「これは……夏祭りのときの？」
「覚えてるか」
「……忘れるはずないよ」
　――こうして思い出を語りながら、修とあおいは新たな思い出を作っていく。

１０月　
【豪華クルーズ】
　豪華客船NEKOJIMAクルーズに2組4名様まで無料ご招待！
『2人の時間』
　常闇 月と九条 翔は偶然あたったこのクルーズに2人で乗ることにした。
「すごいな！　船の中に映画館もプールもあるぜ！」
「……面白いですね」
　非日常空間を2人は満喫したのだった。

『女旅』
　うっかり豪華客船クルーズに当ってしまった大天使 天吏。
　誘う相手もおらず、1人で乗り込もうと思っていたところ――人間形態のクローネと一緒にバカンスを楽しむことになった。

『新婚旅行』
　皐月は無料ご招待とは別に新婚旅行でこの船に乗ることとなった。
　もう鳳翔家の一員ではないことを実感できぬまま、ハネムーンを過ごす。
　夫は皐月のことを、とても大切にしてくれた。

１２月
【大晦日】
『男女歌合戦』
　5年連続、男女歌合戦に出場していた本条 小萩が、この歌合戦を最後にアイドルを引退することを発表。
　来年からは、総合プロデューサーとして活動することも同時に発表した。

『生まれる』
　除夜の鐘が鳴る中、五十嵐 尚輝と時子の間に可愛らしい女の子が産まれた。
　名前はあかり。五十嵐 あかりと名付けられることとなった。

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