ゆふに立つ雨｜リアクション

ゆふに立つ雨

「降って来やがったわ」
　桃川圭花は、しばらく空を見上げた。そして、ふっと笑った。
「こんなこともあろうかと──って、やつよね」
　リベンジというのもおかしいが、さる休日の反省を踏まえて、折り畳み傘を持ち歩くようにしていた。
　白地に紺の花柄をあしらった傘が、灰色の通りにぱっと咲いた。お気に入りのブルーのワンピースと合わせて選んだ柄だった。
　通りの店先には、急な雨降りで立ち往生している人々が、ちらほらと佇んでいた。それらを尻目に、少し得意げな足取りで、ずんずんと歩いていく。
「あれ」
　通りがかったコンビニの窓際に小柄な少年を見とめて、圭花は足を止めた。
　普段は気にも留めない光景だったが、なんだか雰囲気が違った。
（傘、ないのかな）
　買えばいいのに、と思っただけで立ち去ろうとしたが、少し先にいって立ち止まった。
「なんか、気になるな」
　誰かさんに投げかけたお人好し、という言葉がちらりと浮かんで、苦笑した。
　圭花は、一つ息を吐くと、くるりと踵を返した。