星ヶ丘教会のお茶会｜リアクション

星ヶ丘教会のお茶会

「うわあ、すっごいエレガントな雰囲気！」
　庭園をきょろきょろ歩き回って、鴇波羽衣が目をきらきらさせている。
「さっきの歌声もすごく綺麗だったし、美味しそうなお菓子もいっぱいだし！」
　夏の花々を眺めて回り、各所に配置された白い丸テーブルの間を抜け、アイスティーやフルーツジュースがたっぷりと満たされたピッチャーやプティサイズで作られたサンドイッチやタルトが愛らしく並ぶ配膳台へと向かう。
「へぇ、ハチミツにココア？　あ、自由に入れて良いんだ！」
　教会関係者やボランティアの人々がサーブに回ってもいるが、参加者自身がビッフェのように自由に食べ物を取ることもできる。教会関係者達も、望まれれば参加者のテーブルについて談笑したり、悩みを聞いたりもしていて、上品な雰囲気の中でも柔らかくフレンドリーな空気が流れていた。
「アレンジとかしたことないし、ちょっとやってみようかなー」
　うきうきと鴇波がティーポットに手を伸ばした。
「ほう、紅茶を淹れるのか？」
　旅鴉月詠が鴇波の背後からぬっと顔を出した。
「うわっ、え、と……ア、アレンジ、してみようかなって」
　大きな目をまんまるに見開く鴇波に旅鴉がにやりと笑う。
「なら私が手伝ってやろう」
　スケッチブックを小脇に挟むと、カップフォーマーに沈んでいるティーポットを取り出す旅鴉。
「紅茶の美味しい淹れ方には諸説あるが、水は軟水が望ましい。この点、日本の水は適しているな。汲みたて、沸きたてで、天然水ならなお良い」
　美味しい紅茶の淹れ方、を語りながら旅鴉の手はよどみなく動く。
「カップは白色が良い。今日の茶器はシンプルだが美しい白乳色で良いな。ポットはガラスでも中が見えるので面白い」
「ふえー……」
　瞬く鴇波の目が旅鴉の手つきをじっと見つめる。
「紅茶は色と香りが命だからな……さて、茶葉の量だ。一人につきティースプーン一～二杯。ティーポットの妖精へおすそ分けも忘れずに、だ」
「妖精？」
　きょとん、と問い返す声に旅鴉が笑う。
「人数分にプラス一杯、ティーポットの妖精へおすそ分けの一杯分を淹れると紅茶を美味しくしてくれるそうだ」
　うきうきするような話に、鴇波の目が輝く。が。
「まぁ、昔のティースプーンの大きさが今より小さかったからとか、葉の大きさによるからとかで、要はただの調節だな」
　身も蓋もない。
「ええー、そうなの！？」
「まぁ、このティースプーンは少々小さいからな、妖精にもくれてやろう」
　純粋な反応にクツクツと喉を鳴らして、旅鴉が茶葉を一杯ティーポットに追加する。
「沸きたての湯を入れて三分ほど蒸らす。ミルクティーなら長めだな。どうする？」
　砂時計をひっくり返して旅鴉が鴇波に首をかしげて見せる。
「あ、アレンジしてみたいから、ミルクティーにしてみる」
「なるほど、な。シナモンをふってみるのも香りが変わって面白いかもしれんな」
「チャイみたいな感じになる？」
　ペットボトルで市販されていたスパイシーなミルクティーを思い出して鴇波が問う。
「あぁ、そうだな。ロシアンティースタイルも面白いかも知れんな。アイスティーにするなら、ストレートよりミルクやシロップを入れることを薦めるぞ。そうした方が、茶葉の違いが引き立つ」
「ふわー……なんだか紅茶って色々あるんだね。淹れるのって大変なんだ……」
　すっかり感心した鴇波が思わず感嘆のため息を漏らす。
「ん？　慣れだよ、慣れ」
　素直な様子に笑みを深め、旅鴉が最後の一滴まで丁寧に紅茶を注ぐ。
　夏の日差しをきらきらと反射する紅い液体が特別なものに鴇波の目に映る。
「ほら、できたぞ」
「ありがとう！　ね、一緒に飲もうよ」
　その誘いを断る理由もなく、旅鴉は小さく頷いて了承を示したのだった。

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