空中散歩デートジェラート｜リアクション

空中散歩デートジェラート

　休日の空気は、どこかのんびりとしている。
（鳥さんも、お休みの日はなんだか気持ち良さそうです……）
　日傘を差しながらシーサイドタウンを散歩していた御巫時子は、肩に乗せている鳥が小さく伸びをするように羽を伸ばすのを見て、思わず小さく微笑んだ。
　彼女は鳥と会話することができる特殊な力を持っていた。特に人懐っこい鳥は彼女を見かけるたびに近寄ってきてくれるので、彼女の周りはいつもぴーぴーと可愛らしい声にあふれている。
「あそこのジェラート屋さん、評判がいいんですか……？　ふふ、教えてくれてありがとうございます……」
　周囲の人に不審がられない程度の声で会話しつつ、御巫は大観覧車の下に出店しているジェラート店に目を向けた。
　こうも暑い日と、ジェラートも食べたくなってしまう。せっかく鳥さんが教えてくれたことだし、と御巫はジェラート店のケースを眺めた。
（たくさん味があるんですね……。サ、サンマ味……？）
　スタンダードなものからイロモノまで。各種取り揃えたジェラートの中から、御巫は果肉入りのピーチを選ぶ。
　ジェラートを購入したはいいものの、屋台であるため座って食べるスペースはない。
（かといって立ったまま食べるのも……どうしましょうか……）
　少し困ったようにきょろきょろと見回していると、一羽の鳥がまるで彼女に指し示すかのようにぴーぴーと鳴いてみせた。
　そちらに顔を向けると、そこは大観覧車の乗り場。
　確かにここならゆっくりと座ってジェラートを食べることができるはずだ。
（それに、他に誰もいないのなら、ゆっくり鳥さんとお話できます……）

　観覧車に乗ると、それまで大人しく彼女の肩に止まっていた数羽の鳥たちが、一斉にゴンドラ内を飛び回る。
「ふふ、鳥さんたちは観覧車、初めてですもんね……とっても眺めがいいんですよ？」
　といっても、鳥はいつもこんな風景を眺めながら飛んでいるのだろうけれど。
　御巫は鳥のさえずりに耳を傾けつつ、小さくなっていく窓の外の景色を眺めた。あまりにゆっくり回るので、油断すればうとうとと眠ってしまいそうだ。
「町がとても小さく見えます……みんな、いつもこんな高さから寝子島を見守っていたんですね……」
　こうやって高いところに行くと、まるで鳥と一緒に空を飛んでいるようだ。
　思わず御巫が漏らしたその言葉に、一羽の鳥が肯定の鳴き声をあげてみせた。そのあとさらに鳥が続けた言葉に、まあ、と御巫は嬉しそうに顔をほころばせる。
　今日は一緒に空を飛べてとっても嬉しいよ。鳥は御巫にそう語りかけたのだ。
「ありがとうございます……私も嬉しいです……」
　彼女がおっとりと笑ったとき、別の鳥が手元で小さく鳴き声を上げたのが聞こえた。その声に、御巫はそこでようやく気づいたように先ほど買ったジェラートを取り出した。
「すっかり食べるのを忘れてました……みなさんも一口どうですか……？」
　カップの蓋を外して御巫が尋ねかけると、鳥たちは嬉しそうにその甘く爽やかなピーチの香りの元に集まってくる。
　外はきれいな青空。大好きな鳥たちと過ごす空での休日に、御巫はうっとりと幸せそうに目を細めた。

　一緒に空を飛んだ１５分間。
　その時間を終えた御巫は、再びジェラート店に並んでいた。
「ここのジェラート、とってもおいしかったですね……同じ味を、五十嵐先生にも差し入れしようと思うんです」
　また買うのかと問いかける鳥に、御巫は声を潜めながらそう答える。
　先生は休日も授業の準備があるのか、よく顔を出していた。休みの日にも仕事をする先生を労わりたくて、御巫はジェラートを差し入れることに決めたのだ。
　喜んでくれたらいいんですけど……。ほんのりと甘い、まるで先ほど食べた桃のジェラートのような思いを胸に抱きながら、持ち帰り用のジェラートを受け取る。
「そうだ……鳥さんたちも一緒に来ますか……？」
　御巫がそう尋ねれば、あわよくば差し入れのジェラートを一緒に食べれないかと期待していた鳥たちは、嬉しそうにぴーぴーとさえずってみせるのであった。

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