ある霧の向こうの｜リアクション

ある霧の向こうの

「わー！　わー!!　すごいノ！　なんだか周りが真っ白だワ!!」
　御薗井Ｅセレッソは叫ぶ。霧は薄らぐ様子など全く無い。
（!!　誰かと手をつないでるワ！）
　繋がれた手をじっと見ていると、相手も現状に気付いたのだろう、声が聞こえる。
「あら、いつの間にか手をつないでいて失礼……きゃあ！」
　相手が手を離した途端、セレッソと相手の足元に黒い穴が開いた。落ちてしまう前に、セレッソと相手はお互いに手を掴み直す。
「……離しちゃいやナノ！」
「ええ。なんだかとても危ない所ね……ねえ、一緒にここから出ましょう？　きっと１人よりも２人の方が良いと思うわ」
　誰だか分らないが、相手の提案に、セレッソは明るく叫ぶ。
「一緒に出口探すノー！」
　しかしそう叫んだものの、セレッソは、やっぱり相手が誰なのか気になった。鼻を手元に近付けて、すんすんと匂いを確かめてみる。
「!!　なんだかいい香りナノ！」
　少し甘めの優しい香りだ。
「……あら、いい匂い？」
　セレッソの声に、相手が反応する。
「そうねえ、香水は今つけてないからきっと使ってるシャンプーの匂いかしら。ＤＳとかでも普通に売ってるから今度教えてあげるわね」
　大人の女の人だろうか。でも、とセレッソは繋いでいる手を眺める。女性の手よりも大きい気がする。そしてさらさらしていて温かい。声はなんだか凄く落ち着いている感じで安心してしまう。
　最初は少し慌てていたセレッソだったが、相手の優しい物腰に、大丈夫という気持ちが強くなってきていた。
　
　実はこの２人、御薗井Ｅセレッソと早坂恩は、洋菓子店『Raton』の常連である。知人ではないにせよ、店で顔を合わせることがあったはずだ。しかし、霧が深すぎるために、互いに気付いていなかった。

（一緒に元の場所に帰るノ！）
　セレッソは、繋いでいる手をぎゅっと握った。

「きゃー！　なんだか足元から岩が飛び出してくるワ!!」
　恩は、手を繋いでいる誰か（セレッソ）と一緒に、岩の隆起するエリアにいた。予兆も何も無く、突然出てくるものだから、心の準備のしようがない。
「きゃあ、急にでこぼことか危ないわ！」
　恩は驚きで離れそうになる手をしっかりと握りしめる。手を繋ぐ誰かは恩の声を聞いて、ぴったりと身を寄せてきた。相手の早い判断と動きに、運動が得意なのかもしれないと感じる。
「えっとね、もし足元が危ない時は声をかけて手をつないでる方へずれるノ！　声かけないうちはそっちの足元が大丈夫って分かってるから移動しても大丈夫ナノ！」
「分かったわ」
（私は運動苦手だけど……頑張って前に進むわ）
　ゆっくりと、慎重に。恩は手を離さないよう気を付けて、足を踏み出した。
　しばらく歩いて、いつの間にか隆起がなくなった頃。
　ようやく、真っ白な濃い霧が薄れる。相手の顔も見えそうだ。
「まぁ……！　あなただったのね」
　相手を見て、恩は声を上げた。よく行く店で見かけたことがある。容姿に特徴があるから覚えていた。
「こうして出会えて嬉しいわ。素敵なお友達が出来たわね♪」