●寝子ヶ浜・海の生き物名鑑（３）●


【寝子ヶ浜海岸・岩場】

　岩場をにぎやかに訪れた客は、立井 駒鳥、遠矢 護、夢宮 瑠奈、綾辻 綾花、野々 ののこの５人だった。割れた９個のスイカをそれぞれ袋に抱えて、みんなニコニコ笑顔での来訪。
「太公望！　あ、違った」
　立井 駒鳥が八神 修を見付けて、「スイカを差し入れに来たんじゃよ」と袋を掲げて見せれば、
「あ、マリナさんに、華菜子さんも。こちらにいらっしゃったんですか」
　偶然出会ったクラスメイトに、綾辻 綾花と遠矢 護も嬉しそうに声を掛ける。
「ここで何されてるんですか？」
「オサムに、魚の釣り方を教わっていたところデスよ！」
「釣り？　でも八神さん、その本は……？」
「これは海洋生物や貝毒の本、ちょっとした気分転換さ。
　ああ、心配しなくても、参考書もちゃんとあるぞ（ドサドサー）
　期末テスト関係なく、学生の本分は勉強だからな」
「ところでののこちゃん、その沢山のスイカどうしたアルか？」
　指さし訊ねる畑中 華菜子に、ののこがにぱーと笑って、
「あのねー、これは駒鳥君と護君が割ってくれたの！」
「スイカ割り大会で貰ったんだよ。よかったら、みんなでいっしょに食べない？」
　夢宮 瑠奈たちのお誘いに、顔を見合わせる八神たちだったが、
「私も、お弁当に持ってきたパンがあるデス。
　スイカのお礼に、お裾分けするデスよ！」
「ラーメンのことばかり考えてたから、私もお腹が空いてきたアル！」
　マリナ・Ｍ・マディソンと華菜子も即座に同意したので、八神も否やは無い。
「じゃあ、このへんでお昼にしようか。
　立井、遠矢。俺も遠慮なく頂くよ（にっこり）」


「これはウチの店のおススメ、サーモンサンドと、はちみつミルクパンデス！」
　鼻孔をくすぐる、その香ばしいパンと豊かなハチミツの匂いに、我先に手を伸ばす一同だ。
「マリナちゃん、これ美味しいアルネ！
　クリームチーズもとっても合うアル！」
　華菜子がたちまちサーモンサンドを平らげれば、飲み物を勧めながらマリナも、
「ＴＨＸ！　うちのボスが焼いたパンデスからね」
　彼女はシーサイドタウンにあるベーカリーショップ、キムンカムイに住み込みでバイトをしているのだ。
「メインのサーモンも、スモークサーモンとサーモンフライの、２種類持ってきたデスよ」
「どれ、俺も１つ頂こう。うん、うまい」
　また八神も、持参した御握りを皆に配って勧める。
「中身は知らないんだ、サプライズ具材でと使用人に言ったからな。
　さて、何が出るかな？」
「こしあんだー！」と瑠奈。
「カレーですね」と綾花。
「何だかよく分からない、ぬるぬるねとねとネバネバしたものだよ！」とののこ。
「よし、俺は食べない」
「えぇー！　修君も食べよーよ！」
「うわ何をする野々やめろ（モガー）」
　そんな微笑ましい（？）やり取りを横目に、潮風に顔をほころばせて、ああ……この島にも夏が来たんだなぁ……としみじみ実感する華菜子だ。まぶしい太陽、綺麗な海を見ながら、友達と外で食べる食事。どんな物でも美味しく感じるのはきっと、夏が調味料だから。
　出張猫島軒でも、こんな素敵な時間を、お客さんにプレゼントできたらって、思う。
「ラーメンいっぱい作って修行するアル！
　お友達とも目いっぱい遊ぶアル。夏休みが楽しみアルー！」
　そしてデザートならぬこれがメインディッシュのスイカも、いただきまーす！と皆でかぶり付いて。
「「美味しーーーい！！」」
　そう唱和して、スイカ割り大会での活躍を口々に褒める綾花や瑠奈たちに、ちょっと照れくさそうにしながらも。遠矢はパートナーに向かって残念そうに、
「でもスイカ割り、もうちょっとでしたねー。
　ごめんなさい、ナビがへたくそで……」
「遠矢が、後ろで指示してくれたから頑張れたんじゃよ。
　──ありがとうな」
　心からの言葉で、友人の背をぽんと叩く立井だ。


　さて、お腹もいっぱいになった所で、改めて魚釣りの再開だ。
「魚釣り？　ののこもやるやるー！」
　マリナ・Ｍ・マディソンと、あと横からののこも生徒に加わり、今日はとことん海を満喫する気らしい。そんな２人に、ひと通りのやり方を教えてみせると、八神 修は、
「マリナと野々、釣れたら、その魚はどうするんだい？」
「ドースル……デスか？」
　それは考えていなかったマリナだった。
「食べるなら後で、調理して届けるよ。
　逃がすなら逃がす」
「うーん……食べるのは……ちょっと可哀想かも？」
「可哀想なら釣らない方がいいんだ」
　そんなののこに、八神がきっぱりと言う。
「食べるための狩りはどの動物もやってる、これが普通なんだよ。
　スーパーに置いてある魚も漁師が獲って来る。それと同じさ」
「そっかぁ……」
　顔を見合わせる、ののことマリナ。
「でも野々、生き物が死ぬ事を可哀想だと思う気持ちは、とても大切な事だ。
　それは大事にして欲しいな」
「うん、分かった！　大事にする！」
「ＯＨ、オサム！　そうこうしてる間に、私の釣り竿に何か掛かってるデス！
　すごい勢いで引っ張られてマスよ！　どどど、ドーシタラ！？」
「落ち着くんだマリナ、うわっ……これは確かに大物だな。
　野々、それに他のみんなも手を貸してくれ！」
　野々 ののこ、畑中 華菜子、立井 駒鳥、遠矢 護、夢宮 瑠奈、綾辻 綾花の６人も加わり、力を合わせてその大物を、海中から引っ張り上げる！
「「んぎぎぎぎ……（どっぱーーーーん！）釣れたああああああああ！！」」


　◇寝子島・海の生き物図鑑⑥　サンマさん：
　・寝子島の観光大使。外見は、手足のある２足歩行のサンマ。
　・ライフガードとして現在、海の安全をガード中。
　・旬になったら本気出す。


「よっ、元気かい？　みんなのアイドル、サンマさんだぜっ」
「こらこら、何をやってる何を」
「うきゃぽーー！！　わーいわーい、またサンマさんだ〜♪（ぴょんぴょん）」
「おっ、また会ったな！　俺のファンのお嬢ちゃん」
「ライフガードの仕事中だろう？　何故こんな所にいるんだ」
「何故かって？　おっと、そいつは言わずとも分かるだろう、少年。
　少年の……何故か異様に動物に懐かれる謎体質に引き寄せられて、
　ついふらふらと俺も来てしまったのサ、ごろにゃ〜ん（すりすり）」
「懐くな懐くな。ウルッた目で俺を見るな。
　やめろ！　拾わないからな！　絶対に拾わないからな！」
「ウッヒャーイ！　やったねマリナちゃん、
　今日の晩ご飯はサンマさんの塩焼きだよっ！（じゅる……）」
「ＯＨノノコ！　そいつはデリシャス楽しみデスね！」
「待て待て２人とも。ついさっきまで可哀想とか言ってただろう。
　大事に！　その気持ち、大事に！」
「ＯＨ……オサムはケチンボさんデスね！」
「あっ、そしたらののこ、もっとイイコト思い付いたよ！」
　ののこがサンマさんの鼻先を、釣り糸の仕掛けに結んで、
「よっ、（魚に）愛されアイドル、生き餌サンマさんだぜっ！（きらーーん☆）」
「だから無茶をするなよ無茶を」
「よーーし、これでクジラだってばんばん釣っちゃうよ、マリナちゃん！」
「合点ショーチデスよ！　ＧＯ！　サンマさんＧＯ！」
「待ってな、お嬢ちゃんたち！　今大物に喰われてきてやっからな！（ざっぱーーーん）」