Riches have wings｜リアクション

Riches have wings

「ずっと付き合ってた男がいてね、もうすぐ結婚するつもりで式場を探してたんだけど……浮気されちゃった」
　女川智火は憂子を盗み見て、ふんと鼻を鳴らした。
「はー、男なんか信じるから……」
　信じる方がどうかしている。
　どうせ他人なんて一生分かり合えないんだから、火遊び感覚が一番だ。
　というのが智火の考え。
「浮気ってわかって良かったじゃない」
　嘘か本当かわからないままの生殺しが長く続けば、私みたいになっちゃうわ。
　グラスに残っていたお酒を一気に煽る。
「はーっ、ムシャクシャする」
　頭が熱くなるばかりでちっともいい気分になれない。
　そのくせ、その熱さがなんとも『美味しい』。
（ヤな気分のほうが美味しいよね。お酒って）
　味覚までひねくれてるのか、ただのマゾヒズムなのか――もともとそういうものなのか。
　アルコールを分解するのではなく、アルコールに分解されていくような感覚がどうしようもなく気持ちいい。
「テキーラください。……ストレートで」
　テキーラを頼んだのは久しぶりだった。
　けれど今日はうんと辛いやつを飲みたい気分なのだ。
　なにも言わずとも塩と切ったライムが添えられていて、この店悪くはないわねと思いながら、塩を舌の上に乗せる。
　塩の旨味が消えないうちにライムを直接口の中に絞り、テキーラでそれらを流し込む。
　喉がちりちりとした後、体中の血が沸騰するような感覚が湧き上がり、一気に浮遊感がました。
　熱い。美味しい。
（アイツも好きだった）
　テキーラの、アルコールの辛味がツンと鼻を抜けていく。
（私のほうが先に好きだったし、避ける理由もないよねー）
　何度目かの決別の一杯を飲み干して、智火は席を立った。
　帰って呑み直そう。
　溜まってる分を発散させるのは、人前じゃなくてひとりに限る！
　今日は存分に飲んでやる！
　心に決めて、レジに向かう。
　自分の分を払い終えてから、憂子を振り返った。
　けれどすぐに視線を逸らして、今度こそ智火は店を出た。