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[TOS]レメディ
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影が動いた。
楓はショートブレードを手にする前に跳んでいた。つかんでいては間に合わなかっただろう。
相手も速い。闇から滑り出るようにして楓の手首を両手で取った。関節を極めようとする。楓は肘を落として圧を逃し、逆に相手の腕を引き込む。重心が崩れる。楓は腰を低くして体を差し入れた。
地面を蹴り上げる。
投げは決まらなかった。
相手が重心を落とし、足を広げて堪えたからだ。かわりに楓の背中に腕を回し、首元を絞ろうとしてくる。楓は顎を引いて首を守り、相手の肘関節に手をかけた。
そのまま、どっと地面に倒れこんだ。だが互いの腕は緩まない。
膠着。
ふたりは荒い息を吐きながら、互いの体重を預けあうようにして止まった。
「殺しに来た」
声。
夜明け前の暗さの中で、楓はようやく相手の顔を見た。
驚きはなかった。むしろ、来ると思っていた。
「またあんたか」楓が言った。
「黙れ」ミューが言った。
ミューが腰を切って上を取ろうとした。楓は足を絡めて阻む。ミューの膝が楓の脇腹に入る。呼吸が苦しい。しかし楓は肘で押し返すと、うんとミューの腕を引いて片脚を首側に、もう片脚を胴に回して挟んだ。体をひねり、力尽くでミューの腕を伸ばす。
もらった。
腕緘み(アームロック)の形だ。
……!
ミューの脳裏に赤い稲妻が走った。関節が悲鳴をあげている。
だがあえて、より痛みの強い方向にミューは転がった。楓ごと。
鈍い音が立つ。楓の額は地面に叩きつけられていた。
同時にミューは、空いた腕を楓の足首に回した。万力のような力で締める。
させない。
楓は歯を食いしばった。血と、土の味がした。顔が地面に押しつけられているせいだ。
だったら!
瞬間、アームロックをほどくと手と額で地面を打つようにして腰を浮かせ、反動で上体を起こした。砂がばらばらと落ちる。ミューが体勢を立て直す前に楓はその腕を取り直した。脚を絡める。
アームロックを締め直す。今度は、さらにがっちりと。
「がッ!」
声が漏れる。あまりの痛みにミューは一瞬気が遠くなった。口の端から糸のように唾液が垂れた。
このあたしが、このあたしが、こんな……!
きりきりと繊維質の切れる音がする。関節が限界に近い。ミューにはわかっていた。
このまま抵抗しつづければ、腕が折れる。
折れてもいい、とミューは思った。折れたところで殺しの手段ならいくらでもある。
痛みなど関係ない!
もがくように首を上げたとき、ほんの刹那だがミューは痛みを忘れた。
楓の頬が濡れていた。土にまみれた顔に、涙の跡が筋を引いている。
戦いながら泣いているのか。この女は。
ミューの表情の変化に、楓も少なからず動揺した。
見られた。
恥というよりは罪の意識、最も知られたくない相手に、知られてしまったと直感する。
ミューの唇が歪んだ。
梓楓……こいつは、最愛の母親をΕ(イプシロン)に殺されたと聞いた。
バカな女だ、イプシロンは。殺すのであれば母子まとめて殺すべきだったろうに。なぶり殺しにするつもりだったのか。それとも、情けでもかけたというのか。いずれにせよ、詰めの甘さからイプシロンは無様な最期を遂げた。
あたしはイプシロンとはちがう!
「泣き虫お嬢ちゃん? ママのことが恋しくなったのかい?」
ミューがせせら笑うと、あろうことか楓は身を強張らせた。
図星か、甘い女め!
ミューは一気に、腕を楓の脚の間から引き抜いた。楓が体勢を立て直す前に背後に滑り込む。
腕を楓の首に回した。スリーパーホールド。絞め技だ。
楓の頬に、ミューは自分の頬を押しつけた。
土と血の匂いがした。そして汗、おそらくは涙の匂いも。
「銃でも刃物でもない。お前はこの手で絞め殺す」ミューはささやいた。楓がまるで、愛しい恋人であるかのように。「梓楓、あたしの感情をかき乱した報いだ。お前が死ねば、あたしの燻りも消える。そうに決まっている! だからお前は——」
「おしゃべりがすぎるよ」
楓の声は静かだった。次の瞬間、楓の肘が跳ね上がる。
吼え声のような声が漏れた。
ミューの首筋に、楓の中指がめり込んでいた。
Y.E.S.S.I.R.(イエッサー)の位置。ミューのものは制限が弱いとはいえ、急所であることはまちがいない。
ミューは反射的に腕を解き飛び退いた。首筋がしびれている。視界が白く明滅していた。
楓とミューは向かい合った。
荒い息。夜明けの光が、ふたりのシルエットをうっすらと縁取りはじめている。
いつのまにか周囲に人影が集まっていた。ヴァロラからの難民たちだ。遠巻きに、しかし確実に、ミューを取り囲んでいる。武器を持つ者もいる。鍬、棍棒、あるいはただの石。たいした脅威ではない。だが、数が多い。
これ以上この状況で戦うのは非効率だ。
すでにミューは計算を終えていた。
「……今日はここまでにしてやる」
楓に向けて言ったが、楓は答えなかった。
ミューは包囲のゆるい一角に駆け込むと、朝靄に紛れるようにしてその場から完全に消えた。
追いかけようとする住民を片手を挙げて制し、ようやく楓は、頬を乱暴に拭ったのである。
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ダイアリー一覧
シナリオデータ
担当ゲームマスター
桂木京介
前回シナリオ
[TOS] 狂気日食
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
SF・ファンタジー
定員
10人
参加キャラクター数
10人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年07月08日
参加申し込みの期限
2026年07月15日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年07月15日 11時00分
参加キャラクター一覧
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