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猫の集会
ウォルトを追って細い路地の暗がりを抜けたとたん、目の前が一気に明るくなった。
暗がりに目が慣れすぎていたせいだろうか、満天の星々で空が白っぽく光っている。
そこは旧市街の一角で、建物に囲まれた空き地だった。
膝の高さほどまで溜まった水面が天の星々を映して明るく、灯りいらずだ。
視線をあげれば、屋根の上や室外機の上など、至るところに猫、猫、猫……!
「猫の集会だ……」
ハルキが目を輝かせる。きょろきょろと視線を彷徨わせていたシオは、赤い屋根の上に腰をかけるおかっぱ髪の少女を見つけた。猫たちと談笑しているようである。彼女の背後に付き従うのはふさふさとした白い尾の狛が二躯。今宵はあるじに倣って人の姿をとっている。
「ハルさんっ、
お三夜さま
いました!
一之助
さん、
二右衛門
さんも」
探していたひと(神?)に会えたのははじめでではないのに、シオは動悸がしてきてしまう。
思わずハルキと繋いだ手をぎゅっと握ると、愛しい伴侶は、にこ、と微笑みシオを安心させてくれた。
(ハルさんがいるとやっぱり心強いなー)
勇気がでてきたシオは、猫ランプを掲げてお三夜さまたちの前に進み出るとスカートの裾をつまんでご挨拶。
「こんばんは。よい夜ですね」
「これはシオ殿。久しいにゃー」
お三夜さまはシオに気づき、赤い瞳をにこりと細める。
「はい。ご無沙汰していました。お三夜さまは最近お加減はどうですか?」
「うむ。悪くないにゃ。シオ殿はどうかにゃ?」
「お陰様で、私も元気です。大人の階段を上っている、という気はいたしますけどー」
ね、とハルキと目くばせをしあうシオは気づけば43歳。もっとも見た目は二十代でも通りそうではある。
齢千歳を超えるお三夜さまはそれを聞いて愉快そうに笑った。
「なに、私からみればまだまだ子どもにゃー」
「そうかもしれません。ともあれ、お互い夏バテしないように気をつけたいですね」
近ごろの夏は昔よりずっと暑いから。
そんな何気ないことを話すうちシオの緊張も解けてきた。
ハルキが手にしていた袋から、高級ジュースを取り出す。
「いつも妻と仲良くしてくれてありがとう。こちら、お三夜さまに献上します」
「にゃー! ありがとにゃー!」
ありがたく受け取るお三夜さまの背後から、一之助と二右衛門が身を乗り出してくる。
「ハルキ殿ハルキ殿!」
「そちらの袋に入っているものは我らにでござるか?」
「え、っと……焼酎と日本酒だけれど」
「それは、よいものでございますな!」
「我らにはわかります。よいものです、よいものです」
狛猫たちは期待で、ごくり、と生唾を飲みこむ。
「お酒は神社で社務所に預けようかと……」
とたんに、がくっと肩を落とす狛猫たち。
「いいじゃないないですかハルさん。ここでみんなで開けましょうよー」
「まあ、そうだね。シオさんがそういうなら」
それを聞き、ふたたび元気よく尾を膨らませる狛猫たち。
シオはそんな彼らを見ているのが楽しくて仕方ない。
「百面相みたいで面白いー。さ、さ。一之助さんと二右衛門さんも、一献、一献」
シオはまず日本酒の方をあけ、狛猫たちの盃に注ぐ。
「シオさん、俺も一杯いただけるかい?」
「いいですよー。焼酎と日本酒、どちらにしますー?」
「そうだなー……」
ハルキは悩むふりをするが、本当は、シオの喜ぶ顔が見られればなんだってよかったりするのだ。
◇
えっさ。ほいさ。
一艘のゴンドラがやってくる。
中心に座っているのは霊界カフェの吸血鬼ウェイトレス、
ヴィーゼ・ベルンスタイン
。彼女は今宵、店長の伝手で猫の集会のお手伝いにやってきた。
ゴンドラを漕いでいるのはここに来る途中で、水に落ちそうになっていたり高いところから降りられなくなっていたところをヴィーゼに血の腕で助けられた猫さんたちである。猫たちははじめこそヴィーゼの能力にびっくりしたものの、その妖艶な見た目と気さくでお人好しな人柄に心酔し、「ヴィーゼさんのためにゃらば!」とゴンドラの漕ぎ手を買ってでたのだった。
「はい、会場に到着よ~。ゴンドラ、あっちにつけてくれる?」
ヴィーゼは猫の集会が行われている空き地のすみにゴンドラを寄せさせると、猫たちを一匹ずつ抱きかかえて渇いた屋根の上におろしてやった。
「ほら、慌てないでゆっくり降りなさいね~」
猫たちは、にゃーにゃーお礼を言いながらゴンドラを降りる。最後の一匹を屋根に移し終えたヴィーゼは、ふぅ、とひとつため息を吐いた。
「猫さんたち、あとは気ままにやるみたい。さて、私は皆様に持ってきたおやつと飲み物をお出ししなきゃ」
ヴィーゼは明るく声を張る。
「みなさーん! こんばんは。霊界のカフェから差し入れですよー」
猫たちの目がきらりと輝いた。
にゃんと!?
おいしいもの!?
そんな期待の気配は、ヴィーゼにとっては嬉しい。血の手も駆使して、あちらの猫だまりへお菓子をどうぞ、こちらの猫だまりへ飲み物をどうぞ、と動き回るさまはさすが給仕のプロだ。
猫のウォルトに猫カリカリをあげたヴィーゼは、一緒にいるウォルターと七瀬にも微笑みかけた。
「おっと、猫以外のお客様もいるのね……よろしければコーヒーはいかが?」
ぜひ、と彼らは二つ返事で答える。ヴィーゼは持ち込んでいたポットの中身を、耐熱の紙コップに注いでふたりに渡した。
「ああ、いい香りだねぇ」
ウォルターが目を閉じ、コーヒーの香りを楽しんでいる。
「自家焙煎のコーヒーよ。私、コーヒーには目がないものだから、豆にはこだわってるの」
ヴィーゼがウィンクすると、コーヒーを口に含んだ七瀬が幸せそうに息を吐いた。
「はあ~っ、美味しいです。夜空の下でコーヒーって、なんだか贅沢な気持ちになりますね」
その通り。
コーヒーをいただく時間は、至福で贅沢だ。
給仕を終えたヴィーゼは、血の羽根を広げて飛びあがると、このあたりで一番高い屋根の上に腰をかけた。
夜空も、夜の街並みも、そこかしこに浮かぶゴンドラの舳先の蛍のような灯りたちも、すべてが死後の世界かと見紛うほどきれいだ。
ヴィーゼはポットからコーヒーを注いで、両手でカップを包み込みながら黒く温かい液体をいただく。
「ふぅ。一休み、一休み……」
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
笈地 行
シナリオタイプ(らっポ)
ブロンズシナリオ(100)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
動物・自然
NPC交流
定員
1000人
参加キャラクター数
17人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年06月09日
参加申し込みの期限
2026年06月16日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年06月16日 11時00分
参加キャラクター一覧
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