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【14周年】寝子島、アクアアルタ<宴>
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星が瞬きはじめるとき
「一番星、二番星。あ、あっちに三番星。四番星は……もうわからないね」
空が映画館みたいに暗くなり、星々が顔を見せはじめる。
白 真白
は借りたゴンドラでアクアアルタの夜を揺蕩っていた。
ゴンドラのなかにはパンやお菓子、飲み物を積み込んで、舳先には猫のかたちのランタンを下げている。
「いいね。素敵。魔女になった気分だね」
魔女というより魔女っ娘のような容姿の真白は、暗くなってきたのを機にランタンに火を灯した。
やわらかいオレンジ色の燈火が、昼間は街並みと空を映していた水面に、柔らかい光を落とす。
気づけば、あたりはそんな明かりでいっぱいだ。
真白は漕ぐのをやめて、ゴンドラの行き先を流れに任せることにした。
「やっぱり雰囲気いいよねぇ。こうしてのんびりと流れに身を任せるのも一興……」
そうしていると、一艘のゴンドラが近づいてきた。
「こんばんは」
真白は、夜目にも明るい白のゴンドラに乗るご夫婦に挨拶をした。熟年……とはいかぬまでも、長年連れ添っていそうなご夫婦だ。あたりはすっかり暗くなっていて、お互いの顔はよく見えない。しかし知った人でも知らぬ人でも、こんな夜に行き交うとなぜか親しみが湧いてくる。
「こんばんは。いい夜だねぇ」とご主人。
「よいアクアアルタの夜を」と奥さま。
「ええ、そちらもよい夜を」
ささやかな挨拶を交わしてすれ違ったあと、真白はふと振り返り、遠のきつつあるご夫婦の、ご主人のやや白髪交じりの金髪に目をやった。
「あの声、あの金髪……見覚えがある気がしたけど気のせいかな?」
◇
白のゴンドラはゆっくりと、沖のほうへと進んでいく。
漕いでいるのは五十路も近い
ウォルター・B
。
彼の向かい側に座り、水面に映りこむ幽かな星々を手で揺らしては消しているのは、ウォルターと連れ添って十二年になる妻――三十を過ぎた
稲積 柚春
だ。
「本当なら今ごろニャンドでパレードでも見てたのにね」
「仕方ないでしょ~こうなっちゃったらさ」
ウォルターと柚春の間には小学生になった娘と息子がいる。今日は家族でおでかけのはずだったのだが、一家の予定は見事に変更。もちろんアクアアルタのせいだ。
道路は水没。線路も水没。島から出るには舟しかないが、貸しゴンドラでわざわざ本土まで行ったとて帰りはどうする? それに、こんな希少な現象が起こってしまえば、子どもたちの関心はもちろん、街中を海に変えてしまったアクアアルタに向くに決まっている。
「香凛も玲陽もすごくはしゃいでいたねぇ」
「ワットまで一緒になってはしゃぐんだもん、追いかけるのに精いっぱいで目眩がしそうだったよ」
「それは申し訳なかったなぁ」
「いいよ。ワットがいつまでも若いのは嬉しい」
柚春は夫の膝に頭を預けてしなだれかかる。
ウォルターは漕ぐ手をとめ、柚春の髪をそっと撫でた。
「ふたりきりなのも久しぶりだねぇ」
「子どもたち、大丈夫かな」
「大丈夫だよ。家に帰ったらバタンキューだったじゃない。今頃、遊び疲れていい夢見てるよ。屋敷にはメアリもいてくれているし」
「そうだね」
髪を梳いてくれる手が心地よくて、柚春は眼を瞑る。
そうすると、当たり前だけれど、星々が視界から消える。
思わず、深いため息。
「追いついたかな……」
「追いつく?」
「もうすぐ出逢った頃のワットと同じくらいの年になるんだよ。なのに追いついてる感じもなければ、何かが明確にわかったわけでもない……」
そう。水面に頼りなく映り、揺らせば消える星々のように。
「ワットって、いつまで経っても掴めそうで掴めない星なんだ。僕にとって」
――『僕』という一人称を久々に使った気がして、柚春はいささか気恥ずかしくなった。
まるで彼と出会ったばかりの学生のころに戻ったみたいだ。
「君だってそうだけどねぇ」
くすくす笑いが降ってきて目を開ける。
ランタンの燈火に照らされた星は、ああ、なんて美しい対なるブルー!
日常と子育てに埋もれていた愛おしい気持ちが突如膨らみ、柚春は甘えるように彼の腕に抱きついた。
「いつも先生とパパ、お疲れさま。ワットになる時間も忘れないでくれてありがとう」
――ワット。それは柚春が望んだ『理想のウォルター』だ。
彼が自分のために、理想の男性を演じてくれているのではないかと、柚春は密かに危惧していた。
だがもう、自分が愛しているのは理想のワットではなく、白髪も見え隠れする生身のウォルターなのだ。
だから敢えてワットではなく、こう呼ぶ。
「ねえウォルター」
「うん?」
「僕が幸せに思う場所は、ウォルターにとっても心地よい場所になっているかな?」
「なっているようには見えない? だとしたら残念だなぁ」
「もう! 言い方が相変わらずいじわるなんだから」
ほっぺたを膨らませてみるけれど、それはすぐに笑顔に変換されてしまう。
こういう人だって知っているから。
「これからも幸せにさせてね」
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
笈地 行
シナリオタイプ(らっポ)
ブロンズシナリオ(100)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
動物・自然
NPC交流
定員
1000人
参加キャラクター数
17人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年06月09日
参加申し込みの期限
2026年06月16日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年06月16日 11時00分
参加キャラクター一覧
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