あれれ？　混沌の寝子高見学会！？｜リアクション

あれれ？　混沌の寝子高見学会！？

＞懐かしい記憶を思い出しながら

「進学説明会に参加する人はこっちだよ～！」
　有沢茉奈はそう呼びかけ、会場となる体育館へと案内していく。
　楽し気に足を運ぶ中学生の姿を見ながら、彼女は少しだけ懐かしさを覚えていた。
「そういえば、あたし見学会で寝子高の中をうろちょろしてたっけなぁ」
　今、目の前で瞳を輝かせたり緊張したりしながら校内を歩く子たちみたいに、と当時の姿と来場者をちょっと重ねて。同時に仲の良い友達である水上桜の事が頭をよぎった。
（あの子、結構プレッシャーに弱くて試験前は本当にピリピリしてたからそっちの方が自分の試験より気がかりだったなぁ。一緒に受かったけど）
　当時の思い出がよみがえり、思わず苦笑してしまう。そうしていると、「すみません、質問いいですか？」と一人の中学生らしき少女が声をかけてきた。
「うん、いいよ～。なになに～？」
「あのっ、寝子高の試験って難しいんですか？」
　彼女の問いに、茉奈は「うちの入試？」と返し、少し考える。
「う～ん……。『難しい』って言えば『難しい方』に入るのかな……？　でも基礎的な部分ができていれば、あとは日々の学習の積み重ねで結構いけると思うよ」
　少女はそれを聞き、真面目にメモを取る。そんな姿を微笑ましく思いながら彼女は「それにね」と言葉を続けた。
「『ここへ入りたい』って気持ちを持ち続けることが大事だよ。じゃないと、勉強するのがつらくなるからね？」
　なんて茶目っ気交じりに答えれば周りの少女たちも勇気づけられたような様子。「がんばろうね」など言い合う姿に、どことなく中学時代の自分や友達の様子が思い浮かぶ。
　茉奈はくすっ、と笑って、
「実はあたし、来年大学受験だったりするんで、こっちのほうが高校入試よりしんどいよ～」
　なんて言ってしまう。
　その他にも部活の事とか、学校のイベントについてなど次々に質問が飛んでくる。それらに軽やかに答えているうちに、体育館前へと到着した。
「そろそろ進学説明会始まるよ。気になる事は質問してみて！　先生たちも親身になって答えてくれるから！」
　茉奈はそういって、案内した少女たちを見送る。そして、他に道に迷っている人がいないか念のために周囲を回ってみることにした。

　茉奈が少女たちを案内する様子を見た梓智依子は、小さく微笑んだ。
（入学希望者のほとんどは、中学生よね）
　そんな風に思うのは、彼女自身がその年頃に娘を産んだからだろう。
　その選択を間違ったとは全く思わないが、自分は高校へ通うことなどないだろうと智依子自身は考えていたのだ。
（まさか、数年遅れて寝子高へ行くことになるなんてね。人生、何があるかわからないわ）
　当時の事を振り返ると、辛い事もあった。今も勉強に、バイトに育児と毎日慌ただしく過ごしている身。時に疲れを覚えることもある。
　それでも、後悔はしていない。
　ふいに、人の影。顔を向けると、一組の親子連れが困った様子で声をかけてきた。
「すいません、ここに行きたいのですが」
「そこでしたら……」
　智依子は見せられた地図を使い、方向を教えると親子連れを目的地まで案内する。
　その親子連れの微笑ましい様子に、ちょっとだけこんなことを考えながら。
（いつかは、私も楓と一緒にこういった場所に行くのかしら？）

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