あれれ？　混沌の寝子高見学会！？｜リアクション

あれれ？　混沌の寝子高見学会！？

＞開場　――ようこそ、寝子高へ――

　沢山の人で賑わう寝子島高校。その様子に寝子高生たちも少々驚いている模様。
「こんなに多かったのね……。パンフレット、足りるかな？」
「まぁ、その辺りはどうにかなると思うのだけど……」
　長机に積まれたパンフレットを見て有沢茉奈と梓智依子が少し不安げに来客者を見る。一方、水上桜は川添かおると共に倉庫からビニール袋を運んできていた。
「靴用の袋が足りなくなりそうだったから、助かったよ」
「いえ、私も心配になったので……」
　かおる曰く、こんなに沢山見学者が来るとは他の先生がたも考えていなかったらしい。桜は人々の中にあきらかに寝子島の住人らしからぬ姿をした者を複数見た気がしたが、黙っておくことにした。
（そうだとしても、寝子高の魅力を知ってもらうのはいい事だし）
　特にトラブルが起こらなければいいのだけれど、と彼女はため息交じりに祈る。そんな桜の肩を茉奈はぽん、と叩いた。
「ほら、笑顔！　案内担当でしょ？」
「うんっ」
　桜は瞳を細め、いつの間にか少し強張っていた表情が程よく解れたような気がした。その様子を見ながら智依子は楽しそうに微笑んでいた。が、ふと気になった事があったのだろう。ちらりと外を見た。桜はそれがちょっと気になった。
「どうしたの？　心配事？」
「えぇ。ちょっと……」
　智依子は少し言いづらそうに苦笑する。
　彼女は複雑な事情があり、既に５歳になる娘がいる。その娘が寝子高見学会に興味を持ち行きたいと言っており、なだめるのに苦労したのだ。
（今頃あの子どうしているかしら……？）
　少し心配になる智依子なのだった。

（あれ？　確か本屋に行くつもりだったのに……。それに、これは寝子高の制服？）
　卒業生である筈の神薙焔は、突然のことに目を丸くしていた。
　今いる場所は、寝子高の正門。そして、沢山の来場者と、あわただしく案内する後輩たちの姿。それを見た焔は「ふ～ん、なるほど」と頷く。
（人が足りないのね？　ぱっ、と見た感じ寝子島の人とか本来の希望者だけじゃなさそうだし）
　自然と口元が綻ぶ。凛々しい緑色の瞳で周囲を見渡し彼女は小さく笑う。
「なら、一肌脱ぎますか！　……って、制服は着ているのだけれども」
　「言葉のあやよ」と一人呟きながら彼女は早速案内をしようと動き始めた。

　一方その頃、校庭にて。
「こんなにたくさんくるなんて……」
「ちょっと予想外だよな」
　佐藤瀬莉と白石龍樹は人の多さに少々驚きながらも会場までの道を行く。正門まではそんなに感じていなかった分、余計にびっくりした、というような様子だ。
（それにしても……、中学より校舎が大きいし、敷地も広そう）
　それが、瀬莉が感じた最初の感想だった。寝子島の子供たちだけが通う寝子中と違い、寝子高には鎌倉など本土からも生徒が集まる。それ故にという事はわかるが、初めてここを訪れてより感じたらしい。
　一方、龍樹は案内役だろう寝子高の女子生徒に少してれっ、と緩まった表情になりながら「綺麗だなぁ」なんてポツリ。まぁ、進学説明会の会場についてパンフレットで確認していた瀬莉には聞こえていなかったようだが……。
「龍樹君は、進学説明会に行く？」
「俺はまず中学からだし、部活動見学の方に行ってみようかなって」
　彼女からの問いに、龍樹はパンフレットに書かれた部活の欄を指で示しながら笑う。
（勉強の話を聞きに来たわけじゃないからな）
　彼は早速綺麗なお姉さんが手を振り案内する陸上部の見学へ行ってしまった。その背中を苦笑しながら見送った瀬莉は「あたしも行かなくちゃ」と体育館を目指した。

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