フェアリーランド・バレー開拓記　その３｜リアクション

フェアリーランド・バレー開拓記　その３

【ともだち】

「どう？　見つかった？」
『見つからないです～。うう、困ったなあ』
　かしゃこん、かしゃこん、かしゃこん。ロボットのアリソンに付き添って、葉月はフェアリーランドの森を歩きます。探しものをしているのです。
「いつから無いの？」
『今朝はあったんですけどねえ。あれがないと、遠近感がわからなくて……あいた！』
　ごつんと木の枝に頭をぶつけて、ロボットは頭をくるくると回転させました。
　お祭りの品評会で優秀賞を獲得した葉月。その翌日のこと。よい気分で森を散策していたら、かしゃかしゃかしゃんと慌てているアリソンと出くわしました。ロボットはこの森の管理者だとかで、いつも見回りをしているそうなのですけれど。
『片目を落としてしまうなんて。私も年でしょうか』
「ロボットもそういうの、気にするのね」
『記憶力も年々落ちてきていますしね。はあ～』
「元気を出して。見つかるまでいっしょに探してあげるから」
　どこか人間くさい仕草に、葉月はこの錆びたロボットへ好ましい感情を抱きます。
　ロボット。どうぶつたちの暮らす島に、なぜそんなものがいるのか？　なぜ森の管理者なのか？　葉月には分かりませんけれど……彼女（性別は分からないけど）はどうぶつたちや自分のような人間に対して、とても親しい存在に思えました。信頼できると、直感的に感じました。
　だから葉月にとって、アリソンはバレーにおける友人のひとりに他ならないのです。
「あなた、あまり街には来ないわよね。どうして？」
『どうしてって、それは……ワタシは森の管理者ですもの。お邪魔になってしまいますから。あ、でも、街のみなさんと交流がないわけではありませんよ？　トーマス町長やマロン先生は時おり様子を見に来てくださいますし、マチコさんは燃料を持ってきてくださいますし。足が動かなくなったときには、ブラッドさんが修理をしてくださいましたし』
「だったら、もっと頼ってもいいのに。あなた、錆びだらけなんだもの。せっかくのキレイなボディが汚れ放題。あとで私の家に来るといいわ。錆を落として磨いてあげる」
『ええ～？　そんな、悪いですよう』
「いいから。遠慮しないで……あっ」
　そんな話をしながら足元を探すうち、土の上にきらりと光るものが転がっているのに気づきました。
「これかしら？」
『ああ、ワタシの左目！　見つけてくださったんですね。ありがとうございます～！』
　かぽんと瞳を収めたアリソンを、葉月は家へと連れていき、こびりついた錆を落として磨いたり、油を差したりゆるんだボルトを締め直したり、かんたんなメンテをしてあげました。もちろん完璧ではないし、錆がかったボディのかがやきはまだまだ鈍いけれど……それでも友だちへ、できることはしてあげたい。
　それが、神秘的で浮世離れした森の妖精ではなく、この地に足をつけて生きるひとりの人間として、きっとそうすべきこと。葉月には、そんなふうに思えたのです。

このページにイラストを設定する