フェアリーランド・バレー開拓記　その３｜リアクション

フェアリーランド・バレー開拓記　その３

【やってきました、フェアリーランド】

「やあやあ、いらっしゃい！　観光かな？　それとも、新しい開拓者かな」
　電車を下りるなり、フレンドリーに声をかけてきたヤギさん。八神修と七夜あおいは思わず、顔を見合わせました。
　寝子電乗ってがたんごとん。ちょっぴりうとうと、何駅か寝過ごしてしまったかな？　でも寝子電本線って３駅しかないもんね、あっはっは～と思っていたら、どうやらその先があったようです。
「つまりここは、異世界なのか？　ふむ？」
「でも修くん、すっごくいい景色だよ～ここ！　緑の森に緑の山、エメラルドグリーンの空！　綺麗だなあ」
　夏休みの間、寝子島へ帰省中のふたり。そろそろ酷暑の季節は過ぎ去り、ふたりだけの時間も終わりを迎えようかといったところでした。寂しいな、と思っていたのです。
「なるほど、期せずして訪れてしまったのだね。大丈夫、そういうひとも時にはいるものだよ」
　ヤギさんはここ、『フェアリーランド・バレー』の町長さんだそう。まだまだ開拓中のこの街には、彼のようなどうぶつたちが暮らしているのだといいます。
　もふもふ動物さんが大好きな修には、夏の終わりに、嬉しい誤算でありました。
「せっかくだ。しばらく観光していこうか、あおい。入植するのは少し難しいが……観光客としての滞在でも構わないかな、町長さん」
「もちろんだとも！　ゆっくり街をめぐって、楽しんでいっておくれ。もうすこしで秋祭りも始まるから、覗いていくといい」
　ヤギのトーマス町長に見送られて、ふたりは駅から街の中心へと向かいます。たしかに開拓作業中というだけあって、建物はまばら。住人の姿もぽつりぽつり、あまり見られませんけれど、
「ああ。空気が美味しいってやつだな。たしかに素晴らしいところだ」
「ね～！　癒される～って感じ」
　ぷかぷか浮かぶ白い雲。どこか緑がかった淡い空。碧緑の山々……自然豊かな寝子島とくらべても、手つかずのワイルドな風景が残る、解放感あふれる大地です。開拓には参加できないとしても、時おり訪れてはその美しい自然を堪能し身も心もリフレッシュするのには、良いところかもしれません。
「まずは、どっちへ行ってみよっか？」
「そうだなあ。あちらは牧場か？　向こうには食堂もあるようだ。ここの名物でも食べてみようか」
「いいね、賛成～！」