ある休日の一日｜リアクション

ある休日の一日

　開店後は焼き立てパンを目当てとする客が多い。
　嬉しいことこの上ないが、マリナは大忙しである。
　焼き立てパンを店長の所から運んで来ては、販売スペースに並べる。
　それからレジで会計をして、さらには接客も。
　目が回るほど忙しいが、寝子島に来て１月も経っていないマリナにとっては、有り難い機会でもある。
「あら……こんな所で働いてたのね、マディソンさん」
　普段聞き慣れている声に、はっと顔を上げると、マリナと同じ金色の髪がまず目に入った。
　クラスメイトのエヴァ・ブランシェだ。
「エヴァー！」
　エヴァの姿を確認するや否や、エヴァに勢いよく抱きついた。
　ぎゅうーっと抱きしめられて、エヴァはマリナを宥めるようにマリナの頭を撫で撫でする。
「はいはい。あなたホント、こういうスキンシップ好きよねえ」
　呆れている口調には近かったが、どこか慣れてもいるようで、また嫌がる様子も無い。
「ほら、レジ行きなさいよ。あたしはまだ帰らないから」
　エヴァをぎゅっと抱きしめていたマリナは、その言葉にはっと我に返る。
　レジを見遣れば困ったような表情の客たち。
　そして、店の奥から見える店長のギラリとした目……というのはマリナの錯覚である。
「すっ、すぐに行くデスー！」
　慌ただしくレジに向かうマリナを見送って、エヴァは店内の飲食スペースに腰を下ろす。
　マリナが頑張ったからだろうか、５分ほど経つと、客の列が無くなった。
　エヴァは席を立ち、販売スペースに行く。
「エヴァ、朝はパン派デスか？」
　朝に店に来たからそう察したのだろう、マリナが聞く。
　エヴァは今朝あったことを思い出して、苦笑した。
　マリナは小首を傾げて返事を待つ。その様子は大変可愛らしい。
「普段は朝は和食よ。でも昨日お米炊くの忘れてたのよね……これから買い物する予定だし、ついでにと思って外に出たのよ」
「私がアルバイトしてるの知ってたデスか？」
　エヴァは緩く首を振る。
「たまたま通りがかったパン屋にあなたの姿が見えた気がしたのよ。興味本位で入ってみたらやっぱりあなただったわ」
　マリナは、寝子高でしているよりも嬉しさを露わにした。
「エヴァに会えて嬉しいデス！」
「はいはい、私もよ」
　これまた慣れた風に相槌を打って、エヴァは並ぶパンを眺める。
「サーモンサンドを選びましょうかしら。ライ麦パンのサーモンフライで」
　それから紅茶を選びトレイに乗せる。
「うーん、もう１品欲しいわね。何かオススメはあるかしら？　マディソンさん」
　マリナのオススメパンも乗せ、レジに進む。
「折角だから、この向日葵の蜂蜜も頂きましょうか。ふふ、しばらく朝はパンにしようかしらね」
　買い物を済ませ、エヴァは先ほどいた席に戻った。
　相変わらずぱたぱたと慌ただしく働くマリナを眺めていると、なんだか応援してあげたい気持ちになる。
　優雅に朝食タイムを満喫しながら、今日は良い１日になりそうだと思った。

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