一緒にごはん！｜リアクション

一緒にごはん！

【講義のあとで】

　ある秋の日のこと。
　北里雅樹はその日の講義を終えて、吉田キャンパスの本部構内北門で、恋人の坂本美優と合流した。
　雅樹の通う理学部は北部構内にあり、本部構内にある法学部に通う美優と会うためには、どちらかが今出川通りを渡って、もう一方のいる構内に移動する必要がある。なので今日は、雅樹が通りを渡って本部構内へ向かったというわけだ。
　５限の講義は18時終了なので、あたりはかなり暗くなっている。
　雅樹は美優と2人、北門から本部構内へと入った。
（来年からは、それぞれ研究室やゼミに配属になるから、忙しくなるな）
　歩きながら、雅樹はふと思う。
（俺は院に進学するつもりだし、美優は法曹界入りを狙ってて、法科大学院への進学を視野に入れてるからな。……高校の３年間と同じく、大学もあっという間だな。入った時には、４年もあるって思ってたのに、もう折り返しを過ぎるんだから）
　そんなことを考えていると、漠然と将来への不安が頭をもたげて来た。手をつないで歩いている美優の横顔を、チラリと見やる。
（美優との関係も、どうなるんだろう）
　そう思った時。
「どうかした？」
　視線を感じたのか、美優が訊いて来た。
「いや、別に」
「ふうん。……まあええわ」
　曖昧にかぶりをふる雅樹に言って、美優は話題を変える。
「そろそろ夕飯、食べへん？」
「そうだな。言われてみれば、腹が減った。中央食堂へ行くか」
　少しホッとして彼が言うと、「うん」と美優もうなずく。
　そこで2人は、中央食堂に向かった。

　京大の学食である中央食堂は、安くてそれなりに美味しいものが食べられるので、雅樹も美優も重宝していた。
　到着した2人は、雅樹がローストンカツおろしソースを、美優がねぎ塩ハンバーグを頼み、更にそれぞれサラダとライスをもらって、会計を済ませた。
　食堂はそこまで混雑していなかったので、2人は空いている席に向かい合って腰を下ろした。
「それ、この間も食べてたな」
　雅樹が美優の皿を見て言う。
「うん。私、これけっこう好きなんよ」
　答えて美優は、何か思いついた顔になる。
「なあ、一切れずつシェアせぇへん？」
「ああ」
　ねぎ塩ハンバーグを食べたことがなかったので、雅樹はうなずいた。
　ハンバーグとトンカツを、一切れずつ交換する。
　雅樹は、もらったハンバーグを箸で更に半分に割って、一方を口に入れた。
　けっこう美味い。
　残りを、ライスに乗せて食べる。
　これも、いい具合にライスに味が沁みて、美味しかった。
「思ったより、さっぱりしてる。ライスにも合うな」
　正直に感想を口にすると、美優はうれしそうにうなずいた。
「でしょ？　ちょっとクセになる味なんよね」
　言って、美優もトンカツを口に入れる。
「こっちも美味しいわ。おろしソースのおかげで、軽く食べられる感じがする」
「だろ？」
　彼女の感想に、雅樹はうなずいた。
　彼がこのトンカツを好きな理由は、軽く食べられるのに、ガッツリ腹にたまるところだったからだ。
　そのまま彼は、食事と会話を楽しむことに意識を向けた。そうしていると、さっき胸に兆した不安は、消えたような気がした――。

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