蛍屋敷からの脱出｜リアクション

蛍屋敷からの脱出

【１】出られない屋敷

　姉妹がたどり着いたのは、大きな日本家屋だった。
「旧市街に、こんなお屋敷があるなんて、聞いたことがないけど……」
　紫は門の前で足を止め、警戒気味に呟く。
　だが、蒼の方は躊躇いもなく、門の中へと入って行った。しかたなく、紫もそのあとに続く。

　門の向こうには、大きな庭が広がっていた。ここにも、蛍が群れている。
　蒼はもちろん、紫も足を止め、光の乱舞に目を奪われた。
　しばし見惚れていると、誰か蒼の服の裾を引く者がいる。
　ふり返った蒼は、小さく目を見張った。
　そこには、白い髪をおかっぱにした白い着物の子供が立っていたのだ。
　その姿は、紫にも見えていた。
「助けて……」
　かすかな声で言って、子供はふいっと姿を消した。

　普通ならそれは、悲鳴を上げる状況かもしれない。
　だが蒼は、驚かなかった。
（だってここ、寝子島だしね）
　と内心に苦笑して呟く。
　そんな妹の姿に、紫も冷静だ。
（二人ともに見えているなら、さっきのは実在人物なのかしら。……にしては、突然姿を消したし、やっぱり幻か何か？）
　考えながら、彼女はあたりを見回す。
（そもそもここだって……現実の場所なのかしら）
　胸に呟き、彼女は踵を返した。門を目指して歩き出す。
「待ってよ、お姉ちゃん」
　それに気づいて、蒼が慌てて追って来る。
　だが、どれだけ歩いても、門が見えて来る気配はなかった。
　思わず顔を見合わせる二人の耳に。
「助けて……。わたしをここから出して」
　という声が聞こえた。
「誰？」
「わたしは、ホタル」
　誰何する紫に、声は答えた。
「わたしを助けて。あなたたちと一緒なら、きっとわたしは、ここから出られる」
　その言葉に、姉妹は再び顔を見合わせた。
「つまり、逆に言えばあの子供と一緒なら、私たち、ここから出られるということじゃないかしら」
「なら、ホタルちゃん……だっけ？　あの子を探そう」
　紫の言葉に、蒼が言う。
「そうね」
　紫もうなずき、踵を返した。

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