ねこぴょんの日のあとの、7月のある日の夕方。
天満 七星は、寝子島神社へ夕涼みに来ていた。
「まあ……! きれいですわ」
境内の一画で、七星は思わず声を上げる。
すでに薄暗くなり始めている境内のあちこちで、ちかりちかりと光っているのは蛍だ。それも一つではない。周囲を見回せば、いくつも光が見える。
「夕涼みに来ただけですのに、蛍狩りまでできるなんて、眼福ですわ」
うふふと笑って、七星は呟いた。
彼女が蛍の群れに見とれていると、一匹の蛍がついと彼女の傍に寄って来た。見れば、他の蛍よりも少し大きく、その光もやや青みを帯びているように見える。
その蛍が、七星の前で何か告げるかのように小さく弧を描いて飛ぶ。
(……?)
七星は、怪訝に思って首をかしげた。
すると蛍は少し飛んだあと、まるでついて来いとでも言うように空中に停止し、それからちかちかと二、三度光をまたたかせる。
「ついて来いと言ってますの?」
七星が問うと、蛍はうなずくように再度ちかちかと光をまたたかせ、すいと前方に動き出した。
七星はその蛍のあとを追って、歩き出す。
蛍に案内されたのは、寝子島神社の近くの耳福池のあたりだった。
そこに、立派な門構えの日本家屋が建っていた。蛍はその門の中へと入って行く。七星も慌ててそのあとを追った。
門の向こうには広々とした庭があって、神社の境内よりもたくさんの蛍が群れていた。
「まあ……!」
七星は目を輝かせたあと、ふと首をかしげる。
耳福池のあたりに、こんな立派な屋敷があっただろうかと思ったのだ。
少し考え、彼女はそういえば……と思い出す。
池のあたりにはたしか、「蛍屋敷」と呼ばれる廃屋があったはずだ。昔は立派な屋敷だったのだそうだが、今は母屋と庭と門柱、それに庭の隅にある井戸ぐらいしか残っていない……と聞いたことがある。七星は実際に行ったことはなかったが、噂では大昔の武家だか大商人だかの屋敷跡で、夏になると蛍がよく群れることから、「蛍屋敷」と呼ばれるようになったそうだ。
とはいえ、ここはとても廃屋には見えない。
「おねえさん……」
首をひねっていると、誰かに呼ばれた気がして、七星はふり返る。
するとそこには、十歳ぐらいの女の子が立っていた。白い髪をおかっぱにして、いささか古めかしい白い着物を着ている。
あたりはかなり暗くなっていたが、女の子の全身は白く滲んだように暗闇から浮き上がり、顔立ちや着ているものまではっきりと見えた。
「あ……」
人の気配はしなかったのにと、七星が驚いていると、女の子はすがるように彼女を見上げた。
「助けて……」
その口から、低い囁きのような声が漏れる。
「え?」
七星が驚いて声を上げた時には、女の子の姿は消えていた。慌ててあたりを見回すが、女の子の姿はどこにもない。
「いったい、今の女の子はなんだったのでしょう。……それに、ずいぶんと暗くなって来ましたわ」
飛び交う蛍の群れは美しいが、懐中電灯などの用意もない。そろそろ帰る方がいいだろうと、彼女は踵を返した。蛍がたくさん群れているおかげで、歩くのに不自由はない。ただ、どれだけ歩いても、門にたどり着くことはなかった。
とうとう彼女は疲れ果て、立ち止まる。
その耳に、囁くような声が聞こえた。
「助けて……。わたしを、ここから出して……」
「誰?」
七星は周囲を見回し、声を張る。だが、答える声はなく、ただ夜の闇の中を、飛び交う蛍の光が照らしているばかりだった。
天満 七星さま、ガイドへの登場、ありがとうございました。
こんにちわ、マスターの織人文です。
今回は、謎の屋敷から脱出していただくシナリオです。
概要
時の流れは、「ねこぴょんの日のすぐあとの、7月のある日」に固定させていただきます。
あなたは、なんらかの事情で「蛍屋敷」に迷い込んでしまいました。
「道に迷った」のかもしれませんし、「気づいたらここにいた」のかもしれません。あるいは、蛍や女の子に導かれて、ここに来たのかもしれません。
わかっているのは、女の子に「助けて」と求められていること。
そして、ここから出られないということ。
さて、このあと、あなたはどんな行動を取りますか?
◇屋敷の中を調べる。
→何か、出る方法の手がかりになるものがあるかも?
◇女の子を探す。
→ここを出る方法を、知っているかもしれないよね?
◇呪文とか、唱えてみる。
→呪文とか祝詞とか、自分の知ってる方法を試してみよう!
基本的に、行動は自由です。
どこへ行って何をするか、具体的に書いていただけると、助かります。
PLさま向け情報
以下は、PLさま向け情報です。
◆蛍屋敷について◆
・舞台となる蛍屋敷は、現代は廃屋です。
母屋、庭、庭の隅の井戸、門柱のみが残っています。
・PCさまたちが閉じ込められたのは、かつての蛍屋敷です。
母屋と離れがあり、井戸の傍に土蔵があります。
母屋と離れは鍵など掛かっておらず、出入り自由です。
・土蔵について
一階と二階(屋根裏)に別れています。
二階は跳ね上げ式の階段で、昇降できるようになっています。
ですが、階段を下すための鉤棒を探さないと二階へは昇れません。
◆女の子について◆
名前:ホタル
・十歳ぐらいの白いおかっぱ頭の、白い着物の女の子。
・助けを求めていて、ここから出してほしいと訴えています。
・土蔵の二階に閉じ込められています。
◆脱出の条件について◆
脱出の条件は、女の子(ホタル)を助け出すことです。
土蔵の二階への階段を開けるための、鉤棒を見つけて、彼女を解放してあげてください。
NPCについて
申し訳ありませんが、今回はNPCの登場は不可とさせていただきます。
また、Xイラストのキャラクターについても、登場は不可です。
悪しからず、ご了承ください。
それでは、みなさまのご参加、心よりお待ちしています。