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- 00月00日生 00歳
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夏盛り、一篇の恋を携えて。扉がひらく、ふたりの頁へ。
軽快な太鼓と、それに負けない力強い篠笛と。囃し立てる手振り鉦に掛け声が続いて、スタート地点に雲間から差す茜色の光を浴びたねぶたが姿を現した。まだ小屋から運ばれてきただけなのに、まるで湧き上がる昂揚を押さえているかのような不敵の笑み。堂々たる佇まいに、綾花も感嘆の息をつき魅入ってしまう。
「凄いですね……これが今日は、20台も通るんですか？」
「日によって違うみたいだけどね。子供ねぶた、担ぎねぶた、大太鼓の日もあるし――」
と、語りかけたところで珪は止めた。どうやら綾花の熱視線に耐え切れなかったようで、照れくさそうに笑ってねぶたに視線を戻すと「受け売りだよ」とだけ教えてくれた。
辺りでは祭りの開始を待ちわびる見物人から、ワッと声援が上がっている。草履を豆しぼりの手ぬぐいで締め直す跳人も、水分を取りつつ大きく掛け声で応えていて、まだ祭りが始まっていないだなんて信じられない。
そうして盛り上げに盛り上げていた音楽の調子がスッと変わる――夜の熱狂が、始まったのだ。
国道と県道をぐるりと運行するねぶた祭り。近年では通常の観覧席に加え、青森の名産を使った食事やねぶた師の解説までついたVIPシートも販売されているくらい、観光客に向けた取り組みが行われている。そのため、珪も最初は観覧席を押さえようかと思った。大きく旋回する交差点は人気スポットで混み合うようだし、綾花の安全のためにも指定席がいいのではないかと考え、結局２人は新町通りにいる。
「わぁっ……！」
少し踏み出せば触れられそうにあるねぶたに、綾花は目を輝かせていた。寝子島で色んな祭りに触れてきた彼女だからこそ、熱量を感じられる場所を好みそうだというのもあったけれど、今の綾花だからこそ珪はここで一緒に見たかった。
「大人になるのは、まだ先でいてね」
ゆっくり座って鑑賞するのは、何歳になってもできる。でも、２人で笑ってはしゃいで楽しむなら、今がいい気もする。どうせ大人になってしまうのだから、自分に合わせず綾花の速度でいてほしい。
「……大人になっちゃ、ダメですか？」
「ダメじゃないよ。ただ……慌てないでねって」
ねぶたとねぶたの間を見計らって、綾花がぎゅっと腕に抱きついてくる。追いつきたいと願ってくれているのがわかるから、珪は諭すように微笑んだ。
「次は……珪さんに、私の両親と会ってもらいたいです」
「うん、覚悟してる」
「しなくて大丈夫です。たぶん、ワイン用意して嬉しそうに待ってると思いますから」
つい声を出して笑ってしまったけれど、綾花の不安は解けていない。さらに強く絡みつく腕に声を掛けようとしたが、次のねぶたが登場して歓声で渦巻くここでは話を続けられそうにない。
「いつも……臆病で、ごめんね」
呟いた言葉は、珪の胸の内へ音を立てて落ちた。教師と生徒だったときも、恋人になったばかりのときも……そして今日も。覚悟ができたと思ったら、次の不安が湧き出て前に進めなくなってしまう。
お囃子が変わって、狭い県道でねぶたが大きく旋回したのに、綾花の目線は珪に向けられていた。
「珪さん？」
「や、ちょっとね。僕も大人を語れるほど、大人じゃないなと思って」
次こそは見逃さないと意気込む珪を訝しむことなく、綾花も次のねぶたを心待ちに構える。気付けば祭りの熱気に追いやられたのか雲もなく、夏の一等星がチラリと見えた。こんな風に、隠し通せたと思った一言は、案外誰かにバレているのだろうか。
「あ、写真……」
「撮ってあげようか？」
「もう、珪さんも一緒にですよ」
サコッシュからスマホを取り出した綾花は、まずは光が走ったりしないよう調節しながらねぶたを撮った。それから次にインカメラで背景も収まるように引き、２人と一緒に上手くねぶたも収める。
「あっ、ブレちゃった……もう１回っ」
「行っちゃったから、次かな」
失敗も笑顔に変えられる２人だから、進める未来がある。信頼できる温もりがあるから、綾花は囁く。
「今日はドキドキが収まらなくて……寝られない、かも」
それが何のせいであるかは、言わないでおくことにした。旅行の高揚感かもしれないし、お祭りの興奮に当てられただけかもしれない。あるいは――まだ、高鳴りが待っているんじゃないかと期待したのは、秘密。
悪戯な笑みに珪は少し顔を赤らめたけれど、お囃子の音色が変わったことに気付いて話を逸らす。
「ほら、来るよ」
「……すごいですね、圧巻です」
夜に浮かび上がる雄大な姿が、ぐるりと回って全身を見せてくれる。その姿に魅了された２人は言葉もなく手を握り合って、お囃子と鼓動をひとつにしていた。
「凄いですね……これが今日は、20台も通るんですか？」
「日によって違うみたいだけどね。子供ねぶた、担ぎねぶた、大太鼓の日もあるし――」
と、語りかけたところで珪は止めた。どうやら綾花の熱視線に耐え切れなかったようで、照れくさそうに笑ってねぶたに視線を戻すと「受け売りだよ」とだけ教えてくれた。
辺りでは祭りの開始を待ちわびる見物人から、ワッと声援が上がっている。草履を豆しぼりの手ぬぐいで締め直す跳人も、水分を取りつつ大きく掛け声で応えていて、まだ祭りが始まっていないだなんて信じられない。
そうして盛り上げに盛り上げていた音楽の調子がスッと変わる――夜の熱狂が、始まったのだ。
国道と県道をぐるりと運行するねぶた祭り。近年では通常の観覧席に加え、青森の名産を使った食事やねぶた師の解説までついたVIPシートも販売されているくらい、観光客に向けた取り組みが行われている。そのため、珪も最初は観覧席を押さえようかと思った。大きく旋回する交差点は人気スポットで混み合うようだし、綾花の安全のためにも指定席がいいのではないかと考え、結局２人は新町通りにいる。
「わぁっ……！」
少し踏み出せば触れられそうにあるねぶたに、綾花は目を輝かせていた。寝子島で色んな祭りに触れてきた彼女だからこそ、熱量を感じられる場所を好みそうだというのもあったけれど、今の綾花だからこそ珪はここで一緒に見たかった。
「大人になるのは、まだ先でいてね」
ゆっくり座って鑑賞するのは、何歳になってもできる。でも、２人で笑ってはしゃいで楽しむなら、今がいい気もする。どうせ大人になってしまうのだから、自分に合わせず綾花の速度でいてほしい。
「……大人になっちゃ、ダメですか？」
「ダメじゃないよ。ただ……慌てないでねって」
ねぶたとねぶたの間を見計らって、綾花がぎゅっと腕に抱きついてくる。追いつきたいと願ってくれているのがわかるから、珪は諭すように微笑んだ。
「次は……珪さんに、私の両親と会ってもらいたいです」
「うん、覚悟してる」
「しなくて大丈夫です。たぶん、ワイン用意して嬉しそうに待ってると思いますから」
つい声を出して笑ってしまったけれど、綾花の不安は解けていない。さらに強く絡みつく腕に声を掛けようとしたが、次のねぶたが登場して歓声で渦巻くここでは話を続けられそうにない。
「いつも……臆病で、ごめんね」
呟いた言葉は、珪の胸の内へ音を立てて落ちた。教師と生徒だったときも、恋人になったばかりのときも……そして今日も。覚悟ができたと思ったら、次の不安が湧き出て前に進めなくなってしまう。
お囃子が変わって、狭い県道でねぶたが大きく旋回したのに、綾花の目線は珪に向けられていた。
「珪さん？」
「や、ちょっとね。僕も大人を語れるほど、大人じゃないなと思って」
次こそは見逃さないと意気込む珪を訝しむことなく、綾花も次のねぶたを心待ちに構える。気付けば祭りの熱気に追いやられたのか雲もなく、夏の一等星がチラリと見えた。こんな風に、隠し通せたと思った一言は、案外誰かにバレているのだろうか。
「あ、写真……」
「撮ってあげようか？」
「もう、珪さんも一緒にですよ」
サコッシュからスマホを取り出した綾花は、まずは光が走ったりしないよう調節しながらねぶたを撮った。それから次にインカメラで背景も収まるように引き、２人と一緒に上手くねぶたも収める。
「あっ、ブレちゃった……もう１回っ」
「行っちゃったから、次かな」
失敗も笑顔に変えられる２人だから、進める未来がある。信頼できる温もりがあるから、綾花は囁く。
「今日はドキドキが収まらなくて……寝られない、かも」
それが何のせいであるかは、言わないでおくことにした。旅行の高揚感かもしれないし、お祭りの興奮に当てられただけかもしれない。あるいは――まだ、高鳴りが待っているんじゃないかと期待したのは、秘密。
悪戯な笑みに珪は少し顔を赤らめたけれど、お囃子の音色が変わったことに気付いて話を逸らす。
「ほら、来るよ」
「……すごいですね、圧巻です」
夜に浮かび上がる雄大な姿が、ぐるりと回って全身を見せてくれる。その姿に魅了された２人は言葉もなく手を握り合って、お囃子と鼓動をひとつにしていた。
あとがき
担当マスター：
浅野 悠希
ファンレターはマスターページから！
この度はリクエスト頂きありがとうございました、浅野です。
お届けが大変遅くなってしまい、本当に申し訳ございません……。
青森旅行前編！ ということで、魅力を余すことなくお届けできたでしょうか。
未踏の地ではありましたが、色々調べて自分が観光している気分で書きました。
次回の後編ではどこを巡るのか、とっても楽しみにしています！
ぜひ今回のピリッとモードを吹き飛ばす、幸せ全開の２人で来てくださいね！
お届けが大変遅くなってしまい、本当に申し訳ございません……。
青森旅行前編！ ということで、魅力を余すことなくお届けできたでしょうか。
未踏の地ではありましたが、色々調べて自分が観光している気分で書きました。
次回の後編ではどこを巡るのか、とっても楽しみにしています！
ぜひ今回のピリッとモードを吹き飛ばす、幸せ全開の２人で来てくださいね！
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2025年08月07日
- 参加申し込みの期限
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- 2025年08月14日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2025年08月14日 11時00分
