まだ、お盆前だから大丈夫――なんて余裕は通用しない。
世界的にもトップクラスの混雑を誇る羽田空港で、
綾辻 綾花はくったりと肩を落とした。
「手続き……なんとか全部、終わりましたね」
ここは、世界各地へ行き交う人が集まる国際空港。7月から始まった旅客のピークは止まることを知らず、朝も早くから年間最大値を記録する勢いで人が集っていた。
隣で同じように息を吐く
早川 珪も、この混みっぷりを前に苦笑するしかない。少し余裕を持って到着したはずなのに、もう搭乗開始まで20分ほどしかないのだから。
「ターミナルで迷子にならなくて良かったよね。このまま搭乗までゆっくりできるけど……どうする?」
空港へ繋がる道という道が混んでいて、もはや家からターミナルまでが大冒険だった。
自動チェックイン機で搭乗手続きを済ませ、怒濤の列を成していた保安検査場も問題なく通り抜け。ようやく制限エリアに辿り着いたから、もう搭乗のアナウンスが流れるまではすることがない。
「この中にも、カフェやお土産があるんですよね。……見てみようかな」
「空港や新幹線の乗り場ってさ、通じている先のお土産が売っていることもあるから、参考になると思うよ」
東京土産の並ぶその中に、しれっとした顔で混ざる他道府県の土産。
自分用に買ってもいいなと考える珪にクスクス笑い、綾花は両親へのお土産はちゃんと現地でしか買えない物を選ぼうと、ちょっぴり意識して売店を見て回ることにした。
雲の切れ間から差し込む、夏の陽射し。
息をしやすくなったと気付く頃には、もう雲の上だった。
シートベルトサインが消えたのを確認して外してみるけれど、綾花の緊張は解れてくれない。
(もうすぐ……本当に、会うんだ)
いよいよ青森に近づいている。
飛行機が降り立てば、珪の両親に挨拶するのだと思うと、指先がじんと熱を帯びてくるような気がした。
ちらりと隣に座る珪を見れば、2人で一緒に計画したプリントを片手に天気予報を確認している。
(私のことは
話してあるって言ってたけど……どこまで?)
付き合ってる人がいるってだけ? 名前? 猫好きなところとか?
どれくらい知ってくれていて、どんな風に思われているのか。想像ができないからこそ、綾花は鼓動を鎮めるようにそっと胸元に手を添えた。
これから待っている『挨拶』は、ただの『紹介』ではなく――恋人としての責任を感じさせる、『儀式』に近いのかもしれない。
「明日の天気も良さそうだけど……リンゴ狩り、どうしようか。あんまり詰め込みすぎても大変だし」
青森市内の小さな園で手軽に楽しむか、少し足を伸ばし弘前方面のアップルパークで全力に楽しむか。
本当はもう少しあとのほうが品種は多いけれど、今時期には夏にぴったりの爽やかな極早生種が収穫期を迎えているらしく、珪は楽しみだねと笑う。
でも、綾花は笑い返すことができなかった。あれだけ懸命に考えたお土産も、普通すぎるのではないかと心配だし、一生懸命服を選んだけれど気に入ってくれないかもとか、あれこれ不安が溢れてくる。
「緊張してる?」
こくり、と頷き返すのが精一杯。
あれだけ自分から会いたいと言ったのに、もう約束もしてしまっているのに。珪へ告白したときとは、心臓の音がまるで違って、綾花は膝に置いた手のひらをぎゅっと握りしめた。
「……でも、大丈夫です。私、ちゃんとご挨拶しますから」
「そっか。無理はしなくていいからね? 祭りで道も混雑するし、適当なこと言って切り上げられるんだし」
「適当なんてっ!」
パッと顔を上げたときには、珪はもう旅程のプリントに目を落としていた。
あまりの素っ気なさに、綾花は落ち着かない様子で窓の外を見つめるしかない。
(こうして旅行に来られているし、嫌だなんて一言も……聞いてない、はず)
窓から見える光は旅の行方を祝福するかのようなのに、どうしてモヤモヤするんだろう。
不意に、指先が触れた。
きゅうっと包むように大きな手が重なって、綾花はようやく彼の緊張と不安を感じ取る。
以前にも、珪がこの旅行に対して緊張している様子はあった。理由は頑なに教えてくれなかったけれど、ご両親に挨拶するのも
『早くないかな』と困惑気味に口にしたのを覚えている。そのあと、少し緊張を緩めて笑ったことも。
(……あれって、もしかして)
彼の考えは、まだわからない。この旅の行く末だって、まだ見えない。
だけど、期待と不安が静かに溶けあうように、互いの手の震えは止まっていた。
まもなく降り立つ空の下。
二人だけの頁が、そっと綴じられようとしていた。
リクエストありがとうございます、浅野悠希です。
こちらは、綾辻 綾花さんのプライベートが満載なシナリオです。
このシナリオでは『時の流れ』が設定されています。 ※プロフなど各種設定にご注意ください。
■年月日 :寝子暦1372年8月6日(木)※あくまでこのカレンダーは目安です。綾辻さんの思う世界線のカレンダーをご使用ください。
■気象予報:日中はやや曇りますが、雨の心配は無さそうです。夜には上弦の月が輝くでしょう。
概要 - 夏の青森を満喫しましょう! というシナリオです。 -
※ このシナリオは、前後編の2部構成です ※本シナリオ(前編)では、旅程の8月6日~7日(仮)の2日間のうち、6日を中心に描きます。
後編はこのリアクションが完了後に「夏果てで、想いの頁を綴るたび。秘めた綴じ目へ、君と踏み出す。」として公開予定です。
恋人になって初めての、1泊旅行
目的地は青森県。ねぶた祭の熱気に包まれたり、リンゴ狩りなど観光を満喫したり、何をしようか迷いますね!
あれこれ考えていた計画を伝えて頂くのももちろん歓迎ですし、お任せも大丈夫です。
もしお任せだった場合を想定しての、旅の流れを例として紹介しますね。
> 旅のモデルケース:1日目
午前中 :飛行機は羽田空港から青森空港まで直行! お喋りを楽しんでいれば、1時間半ほどで到着です。ローカル感溢れるターミナルでは、ちょっとしたショッピングや観光もできそうです。
お昼 :荷物は青森駅前のロッカーなどに預け、青森市内で待望のあの方々とご対面!
ランチや市内観光の間に、仲良くなることはできるでしょうか。
夕方~夜:ねぶた祭を思いっきり楽しみましょう!
> 旅のモデルケース:2日目
前日夜~:祭りの興奮冷めやらぬ中、ホテルへ。今夜の宿は、どんなお部屋でしょう?午前中 :昨日は飛行機にご挨拶、祭りに諸々緊張のピークだったはず。まったり過ごしましょう。
お昼 :青森市内観光、または近隣でリンゴ狩りなどを楽しめます。
本日はねぶた祭の最終日! お昼は街中を走行しているので、再度楽しむこともできますよ。
夕方 :ねぶた祭の会場は、陸から海へ。少しだけなら準備の様子も見られそうです。
こちらはあくまで一例です。
もし、「お祭りは最終日を見る予定だった!」とか「リンゴ狩りは朝から行く!」などありましても大丈夫です。
ガイドに縛られず、申請いただいた内容も含めて自由にアクションしていただけますので、ご安心くださいね。
NPCとXキャラ - 申請時に指定頂いたシナリオは再送不要です -
今回登場とお伺いしてますのは、NPC:早川 珪
綾辻さんの恋人です。飛行機に乗ったあたりから、少し緊張しているようです。
今回の旅行で『恋人を連れて行く』ことは両親に伝えてあるものの、綾辻さんの全てを話せていません。
覚悟は決めた、それでも……。いざ、となると心の準備が必要そうです。
※ 独自ルール ※ - こちらは他MSへ対応を迫る行為はお控え下さい -
浅野が担当するシナリオでは、 様々な短縮表記が可能 です。参照シナリオがある方、Xキャラと参加したい方、アイテムやイラストを参照してほしいなどありましたら、
『独自ルール』をご参考に短縮表記をされると、アクションの圧縮に繋がります!
※気になる方は、ぜひお気軽に利用してくださいね。
※今後は、基本的に参照シナリオを提示されない限りは、同じ世界線として扱いません。
寝子暦1372年の卒業式以前のシナリオは、問題なく『過去』として参照が可能なため、引き続き参照します。
それ以後は自主申告がないと、浅野側では別の世界線なのか同一世界線なのかを判別することができません。
そのため、 物語の隙間を埋めるような描写 を希望される際は『必ず』参照シナリオをご提示ください。
※過去参加して頂いた浅野のシナリオに関しても、記憶違いを避けるためにご協力頂けると助かります!
(そのため、1度お知らせ頂いた内容であっても、必要な場合は都度お知らせ願います)
※必須じゃないけど知っておいて欲しいなという事柄については、 少しであれば 確認させて頂きます。
※但し、こちらは全てに目を通すと確約をするものではなく、あくまで余力があればとなります。
それでは、よい1日をお過ごし下さいね!