フェアリーランド・バレー開拓記｜リアクション

フェアリーランド・バレー開拓記

【今と昔と】

「モフモフ♪」
　しゃべる動物たちの暮らす街を、タルトは息を切らして駆けておりました。そんなふうに走るひとなんてここではちょっぴり珍しいものですから、イヌのひともネコのひとも、カバさんもクマさんも、誰もがみんなタルトに声をかけ、元気だねえと朗らかに笑いました。
「こんにちは！　わーほんとにモフモフだ～」
　のどかな谷間の街では動物たちがそれぞれのスタイルで、それぞれのスピードで日々を過ごしています。時間はゆっくり流れていて、急かすものもなく慌てる必要もありません。ゆっくりと自然や景色を堪能しながら歩いてゆくのが、この街でのやり方です。
　そんな中、タルトは急ぎ駆けています。どうしても知りたくて。教えてもらいたくて。やがてタルトはずどどどどっとフェアリーランド・バレー役場へ飛びこむと、息せき切ってたずねました。
「異種族婚ってどうなってるんですか！？　結婚して子どもが生まれたらどうなるの？　気になって気になって夜も眠れません！」
「やあ、いらっしゃい」
　出迎えたヤギのトーマス町長は、にこやかに微笑みました。これまでにも幾人もの開拓者が外からやってきたそうですから、きっとそういった質問にも慣れているのでしょう。
　タルトの問いはもちろん純粋な好奇心であり、開拓者としてここで暮らしていくにあたって、当然の疑問ではありましょう。
「たとえば、イヌさんとネコさんが結婚したら、子どもはどうなるんですか？」
「イヌの子かネコの子、どちらかが生まれてくるだろうね。ライオンとゾウが結婚したら、子どもはライオンかゾウのどちらかになるね」
「ほうほう？　それじゃあ、おじいちゃんにパンダがいたとして、孫にパンダが生まれてくるとかは」
「あくまで両親のどちらかになるね。ここではそういうものだから」
　どうしてそうなるの？　なんて、リクツは分かりませんけれど、そういうものなのだそうです。
　納得いったようないかないような。それでもタルトはうなずいて、もうひとつ問いを重ねました。
「肉食獣と草食獣の関係性は、どうなっているんですか？」
「ふむ。たしかにわれわれの祖先は、そのように分かれていたかもしれないね。けれど今は、あまり区別はないかな？　私もお肉をたべるしね、ははは」
　肉食とか草食といった違いは、ここではあまりないみたい。ライオンさんがヒツジさんを食べてしまうなんて、リョーキテキな事件が起こったりもしません。
　ひょっとしたら失礼な質問をしてないかな？　とすこうし気になったりもしましたけれど、町長は終始にこやかです。タルトはほっとして、
「ありがとうございます！　ますますこの街に興味が湧いてきちゃったな」
「それはなによりだね。ほかにも聞きたいことがあったら、いつでもたずねておいで」
　気になることはまだまだあります。トーマス町長にぺこりとおじぎをしたら、ふたたび駆け出しました。さて、次はどこへ行ってみようかな？

このページにイラストを設定する