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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
未来の君に贈る言葉
◆約束の人
あの日の桜はまだ随分と若く、自分達の背丈よりも少しばかり高いだけだった。
見上げたすぐ先にあった桜色。この日、この場所を忘れないようにと目印に掘ったハートのマークと自分達の名前。照れ臭そうに笑い合い、交わした約束はまだ、褪せる事は無い。
息を切らせ、駆ける。体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下、整備された樹木の中、一等大きな桜の木。
猫が鳴く。「あった！」と、誰かが声を上げる。見上げた先、あの日と同じ桜色に随分と空に近い場所へ行った目印。久保田が拳を握り、天へ突き出す。
「よーしあとはタイムカプセルよ！掘るぞー！！」
——おーっ！！！
ざくりざくりとスコップは鳴り止まない。
木がひっくり返ってしまうのではないかと思う程に、その根元があっという間に穴だらけになっていく。
この調子ならばきっと見つける事が出来るだろう。そんな淡い安堵に胸を満たしながら、仙藤は小さく息を吐く。
何を隠そう自分も、小学生時代にタイムカプセルを埋めたのだ。それは卒業記念という他愛もない企画で。自分に宛てた手紙を入れて、これとまたいつか対面出来る日に胸を躍らせた記憶は未だ瑞々しく。同時に、でも、と、密かな痛みをも呼び起こす。自分のそれは終ぞ叶う事は無かったのだ。校舎の補修の際に建設業者が掘り返し、ごみと間違えられて捨てられてしまったから。刹那、胸を刺す冷たい棘は喪失感だろうか。どうか見つかりますようにと、願いを込めて仙藤は手を進める————。
「珪さんはタイムカプセル埋めた事ありますか？」
「タイムカプセル？」
その声に「はい」と返しながら、綾辻はさくさくと地面を刺す。
目線は下に向いたままの一生懸命な彼女を見、早川は「そうだな」と優しく耳を傾けている。
「綾花さんはある？」
「はい、私は高校一年の時に埋めた事あります。２００年後に開ける予定なんですよ」
「200年後？随分と気の長い話だね」
「ええ。猫好きな先祖から子孫へのプレゼントですから」
「ああなるほど、それは素敵だね」
にこやかに、けれども「子孫か」と、どこか意味深な呟きを零した早川に、綾辻は小首を傾げた。
そんな彼らに青春だねと笑みを零しながら、三毛谷は一人、思考を巡らせる。
タイムカプセルなんて代物、知った時は狂気の沙汰かと首を捻ったものだ。野生動物にはない、想い埋めるという考えは、人の文化は、なんと趣深く興味深いものだろう。はて、自分であれば何を埋めるのだろうか。人と寿命の違う存在である自分が、と、そこまでを巡らせて三毛谷は気が付く。その考え即ち、自分と誰かの思い出を埋めようとしているじゃないか、と。今の友との写真や思い出の品は今しか埋められないものね。寿命が違うからこそ、いつか来る別れの前に約束を——と、
「お？」
スコップの先端がカツン、固い音を鳴らす。
音の出処は、青く汚れたクッキー缶。「あった！」と零れた声は三毛谷が思うよりも大きく、その場に響いた。
——いくよ、せーの！
開いた先にあったのは、過去の宝物達だった。
錆びかけたブリキの飛行機、ビーズの腕輪等々。そんな幼い品々から思い出を取り出すように、春義がそっと手を伸ばす。手にしたのは一枚の写真だ。彼は言う。はじめて二人だけで撮った、はじめて二人でデートをした記念写真だと。学生服姿の春義とセーラー服の少女はぎこちない距離で緊張しながらも幸せそうに微笑んでいる。
「へぇー可愛い子だねー」
「本当ですねぇ、やるじゃない春義さん」
「そ、それほどでも」
シオと久保田に左右から肘で押され、春義はしどろもどろになりつつもはにかむ。写真の少女に向ける瞳は、溢れんばかりの愛おしさで満ちているようで。小さな笑みを零しながら花咲が春義を覗き込んだ。
「この方は今、どうなされているのですか？」
「……わかりません。今までずっと逢えなくて。もしかしたらもう僕の事なんて忘れてるのか、それとも僕のように命が尽きてしまったのかもしれません」
「そう、だったのですか……あの、その、すみません」
「いえ、良いんですよ。それならそれで僕は構わないんです。僕の想いも全部この中に仕舞い込んで、それで眠るって決めましたから」
「春義さん……」
眉を下げた花咲に春義は笑う。
それは何かを決意したもので。同時に、どこか寂しさを湛えた強がりのようにも見えた。その表情のまま、そのまま彼は徐に学生服のポケットへと手を伸ばす。そこから何かを取り出した時だった。
「あら、私以外の人がここに居るなんて」
やわらかな声だった。さあっと、風が吹き抜ける。
覚えたのは、春の予感にも似た静かな胸の響き。淡い淡い、祈りの様な、期待。
振り向く。桜色の向こうに一人、女性がある。
「花(はな)ちゃん……？」
「春義、さん？」
あの日の桜はまだ随分と若く、自分達の背丈よりも少しばかり高いだけだった。
見上げたすぐ先にあった桜色。この日、この場所を忘れないようにと目印に掘ったハートのマークと自分達の名前。照れ臭そうに笑い合い、交わした約束はまだ、褪せる事は無い。
息を切らせ、駆ける。体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下、整備された樹木の中、一等大きな桜の木。
猫が鳴く。「あった！」と、誰かが声を上げる。見上げた先、あの日と同じ桜色に随分と空に近い場所へ行った目印。久保田が拳を握り、天へ突き出す。
「よーしあとはタイムカプセルよ！掘るぞー！！」
——おーっ！！！
ざくりざくりとスコップは鳴り止まない。
木がひっくり返ってしまうのではないかと思う程に、その根元があっという間に穴だらけになっていく。
この調子ならばきっと見つける事が出来るだろう。そんな淡い安堵に胸を満たしながら、仙藤は小さく息を吐く。
何を隠そう自分も、小学生時代にタイムカプセルを埋めたのだ。それは卒業記念という他愛もない企画で。自分に宛てた手紙を入れて、これとまたいつか対面出来る日に胸を躍らせた記憶は未だ瑞々しく。同時に、でも、と、密かな痛みをも呼び起こす。自分のそれは終ぞ叶う事は無かったのだ。校舎の補修の際に建設業者が掘り返し、ごみと間違えられて捨てられてしまったから。刹那、胸を刺す冷たい棘は喪失感だろうか。どうか見つかりますようにと、願いを込めて仙藤は手を進める————。
「珪さんはタイムカプセル埋めた事ありますか？」
「タイムカプセル？」
その声に「はい」と返しながら、綾辻はさくさくと地面を刺す。
目線は下に向いたままの一生懸命な彼女を見、早川は「そうだな」と優しく耳を傾けている。
「綾花さんはある？」
「はい、私は高校一年の時に埋めた事あります。２００年後に開ける予定なんですよ」
「200年後？随分と気の長い話だね」
「ええ。猫好きな先祖から子孫へのプレゼントですから」
「ああなるほど、それは素敵だね」
にこやかに、けれども「子孫か」と、どこか意味深な呟きを零した早川に、綾辻は小首を傾げた。
そんな彼らに青春だねと笑みを零しながら、三毛谷は一人、思考を巡らせる。
タイムカプセルなんて代物、知った時は狂気の沙汰かと首を捻ったものだ。野生動物にはない、想い埋めるという考えは、人の文化は、なんと趣深く興味深いものだろう。はて、自分であれば何を埋めるのだろうか。人と寿命の違う存在である自分が、と、そこまでを巡らせて三毛谷は気が付く。その考え即ち、自分と誰かの思い出を埋めようとしているじゃないか、と。今の友との写真や思い出の品は今しか埋められないものね。寿命が違うからこそ、いつか来る別れの前に約束を——と、
「お？」
スコップの先端がカツン、固い音を鳴らす。
音の出処は、青く汚れたクッキー缶。「あった！」と零れた声は三毛谷が思うよりも大きく、その場に響いた。
——いくよ、せーの！
開いた先にあったのは、過去の宝物達だった。
錆びかけたブリキの飛行機、ビーズの腕輪等々。そんな幼い品々から思い出を取り出すように、春義がそっと手を伸ばす。手にしたのは一枚の写真だ。彼は言う。はじめて二人だけで撮った、はじめて二人でデートをした記念写真だと。学生服姿の春義とセーラー服の少女はぎこちない距離で緊張しながらも幸せそうに微笑んでいる。
「へぇー可愛い子だねー」
「本当ですねぇ、やるじゃない春義さん」
「そ、それほどでも」
シオと久保田に左右から肘で押され、春義はしどろもどろになりつつもはにかむ。写真の少女に向ける瞳は、溢れんばかりの愛おしさで満ちているようで。小さな笑みを零しながら花咲が春義を覗き込んだ。
「この方は今、どうなされているのですか？」
「……わかりません。今までずっと逢えなくて。もしかしたらもう僕の事なんて忘れてるのか、それとも僕のように命が尽きてしまったのかもしれません」
「そう、だったのですか……あの、その、すみません」
「いえ、良いんですよ。それならそれで僕は構わないんです。僕の想いも全部この中に仕舞い込んで、それで眠るって決めましたから」
「春義さん……」
眉を下げた花咲に春義は笑う。
それは何かを決意したもので。同時に、どこか寂しさを湛えた強がりのようにも見えた。その表情のまま、そのまま彼は徐に学生服のポケットへと手を伸ばす。そこから何かを取り出した時だった。
「あら、私以外の人がここに居るなんて」
やわらかな声だった。さあっと、風が吹き抜ける。
覚えたのは、春の予感にも似た静かな胸の響き。淡い淡い、祈りの様な、期待。
振り向く。桜色の向こうに一人、女性がある。
「花(はな)ちゃん……？」
「春義、さん？」
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2025年03月18日
- 参加申し込みの期限
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- 2025年03月25日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2025年03月25日 11時00分
