何かの声が聞こえた気がする。
何かの声に呼ばれた気がする。
何か、とても大切な何かを探して欲しいと、その声は言っていた。
満開の桜がはらはらと、ひらひらと、その花弁を風に舞わせる。
ああ、今年もこの季節がやってきたのかと、
久保田 美和はゆるりと目を細める。
馴染みはあった。一日の哀愁を仄かに覚えるこれは、この世界に何度目かも知れない、所謂『卒業シーズン』というものの訪れだ。寝子島高校の校舎から聞こえる歌声は、合掌練習というやつだ。それに耳を澄ませば、まだどこかあどけなさを残した声音が、桜吹雪を巻き込み、空を尽きぬ抜けるような力強さを持って、重なり切らない綺麗な歪さを残響に、心地良く鼓膜を揺らしていく。そこに乗せた様々な感情の鮮やかさにまたふっと目を細めながら、ふさりふさりと道を覆う薄紅色を軽く蹴り上げる。
「……?」
不意に、声が聞こえた。
合唱の合間合間に漏れる生徒のそれとは違う、明確な、声。
明確で、然して形の無いそれは、声というよりも風の音や雑踏の様な無味無臭の音に近いものだ。色で例えるのなら、深い深い夜空。暗い路地裏をぽつんと照らす街灯のような静寂さと寂しさに満ちたものだろう。
「何処?何処?」としきりに告げるそれに、嗚呼、これは、人ならざるものの未練であると、自分の中の確信めいた勘が告げる。この島での一切合切を終え、この島での全てが過ぎ去った今も尚、何かのきっかけで顕現してしまった存在というのは決して少なくないのだ。だからなのか、それとも、こんな季節であるのが関係したのか、興味を餌に、悪戯が手を引いて、まんまと引き寄せられたのかもしれない。
ふさり、ふさり、薄紅を蹴る。
校舎の中、一等大きな桜の下に、それはいた。
「どうしたんですか?」
酷く驚いた顔をするそれは、こちらの予想よりも随分と年若い男性だった。
黒い詰襟に金の釦、所謂学生服とやらを身に纏った彼は、まさか見付かるとは思っていなかったと告げるような顔色でもって、戸惑いながらもこう答える。
「タイムカプセルを探しているんです」
「タイムカプセル?」
「ええ。約束したので、いつかの未来、この日、この場所で開けようと……」
「そうなんですか」
「ええ。ですが、僕は入れ忘れてしまったものがあるんです。彼女が来る前に、見つけなければ」
「はあ……」
タイムカプセルとは、周知の通り、何かを入れて、そして眠らせて、いつかの別の日に開けるものだ。
もう少しだけ、詳細に話を聞く。
ずっと昔。それこそ、この校舎が出来た頃に、彼は彼女とたいむかぷせるを埋めたらしい。
その頃は、今よりずっとこの島はごたごたしていて忙しなくて、今ほどゆっくりと、時間を噛み締めている時間はなかったそうだ。だからいつか、ここが平穏無事に落ち着いた今日に出逢いたいと約束を交わしたらしい。
「いざ、そうなって、彼女がタイムカプセルを見付けてくれたらそれで良かったんです」
自分はもう、この世成らざるものだから。
この世に生きる存在と、悪戯に交わる事を良しとはしない。
世界の本来の理を、均衡を、それを悪戯に崩すわけにはいかないと、眠りに就くはずだった。
「けれどひとつ、入れ忘れてしまったものがあって」
「なるほど」
「どうしても、どうしてもそれを入れないといけないんです」
それはなんだろうか。訪ねても、大切なもの、としか教えてくれない。
嗚呼また、興味を餌に、悪戯が手を引いている。知りたければ手伝えばいいと告げている。
嗚呼仕方ない、乗り掛かった舟だ。それが豪華客船か泥船かはもう、乗り込まなければ知れない。
「んー、良かったらなんですけど、私も手伝いましょうか?」
「ほ、本当ですか?! それは、ええ! ありがとうございます!!」
「いえいえ」
おやまあ、案外あっさりと。
然してそれ程に、困り切っていたという事だろうか。
それならばもういっそ遠慮も無く、己の言葉に嘘偽りなく快く、手を貸すのが道理というもの。
タイムカプセルを埋めた場所は、
大きな桜の木の下、合唱が良く聞こえる場所、木は校舎に沿うように生えたもの。
この三つが合致する場所に埋まっているという。
木にハートの彫り物があるから、よく見て欲しいとも告げられた。
タイムカプセル自体は、よくある丸いクッキー缶、青い色のものだそうだ。
「……とはいえ、一人で探すのは大変かも」
ならばここは人海戦術。猫でも孫でも手を借りよう。
言の葉を風に乗せて、電子の海に放り投げて、人々の耳に目に届けよう。
すみません、
誰か手伝ってください。
お疲れ様です。お世話になります、盛見ざわわと申します。
どこかで名前をお目にされた事のある方なら改めまして。はじめましての方は、どうぞよろしくお願い致します。
初シナリオです。世界観を大切に、思い出の品を探すものにしたく思います。
NPCであります久保田 美和と共にタイムカプセルを探してくださいませ。
ヒントはガイド本文にありますものをご参照ください。どう探すかは皆様のPC様にお任せいたしますが、校舎を破壊したり、桜の木を引っこ抜いたり等ど、世間一般の常識や良識の無い行動は慎んでいただきますと幸いです。ろっこんを使用します、残留思念を辿る等は問題御座いませんので、どうぞやりたい事をアクションにてご記入いただければと思います。
人ならざる男性や久保田との交流がしたい方も歓迎です。
サンプルアクションを記載します。どうアクションしようか迷われている方はご参照いただければと思います。行動が難しい場合は心情のみでも構いません。キャラクターとしてどう動きたいかを自由にご記入いただければと思います。
また、グループ参加をしたい場合は、アクションのどこかに同行者の氏名や【グループアクション】という形でご記入ください。
登録済みのNPCなら、特定のマスターが扱うキャラクターを除き、基本的に誰でも登場可能です。
Xイラストのキャラクターを描写する場合、
PCとXキャラの2人あわせて「1人分」の描写なので、無関係の行動などはお控えください。
※Xキャラだけで1人分の描写とすることも可能です。
その場合は、PCさん自身は描写がなく、Xキャラだけが描写されます。
Xキャラのみの描写をご希望である旨を、アクションにわかるようにご記入ください。
※Xキャラをご希望の場合は、口調などのキャラ設定をアクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。